近い将来、飲食店や宿泊施設は全国チェーンだけに⁉


たくさんの店小物と休業看板
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現在、社会保険料は企業と労働者本人が半分ずつ負担していますが、特例措置では、年収156万円未満の短時間労働者を対象に、会社負担の割合を引き上げられるようにする方針です。労働者と企業側が双方で同意すれば社会保険料の負担率が「企業が9、労働者が1」ということも可能になります。

パート労働者の手取り額が増える可能性があることは喜ばしいことですが、筆者はこの案がそのままで上手くいくとは到底思えません。負担の増加に耐えられない企業が続出することが予想されるからです。

日本の企業の99.7%が中小企業で、パート労働者の特に多い「宿泊業、飲食サービス業」、「卸売業、小売業」もその大半が中小企業です。少し古い資料になりますが、2012年の中小企業白書によると、「宿泊業、飲食サービス業」の87.3%が従業員数5人以下の小規模事業者です。中規模企業も12.6%に過ぎず、大企業に至ってはわずか0.1%。小売業も同様で、84.4%が小規模事業者です。調査から10年以上経過していますが、この傾向は今もほぼ同じでしょう。

こうした小規模事業者の多くは、少ない儲けの中でなんとかやり繰りして生き残っている状態だと推測されます。厚生年金の加入要件を撤廃することで、企業側、特に中小企業の経営に大きな負担がかかることになります。社会保険料の負担が大きすぎることによって、人員の削減を余儀なくされたり、倒産に追い込まれたりといったことも想像に難くありません。

政府は企業の負担軽減措置も検討するとしていますが、こうした状況の中、まさか企業側になんの手当もせずに、負担だけを強いることはないと思いたいところです。乱暴にこの案を通してしまうと、飲食店や宿泊施設は結局、大手全国チェーンだけみたいなことになってしまうのではと懸念しています。