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 スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHチューリッヒ)の研究チームは、複数種類の地震波を総合的に分析する新たな解析手法を開発した。これにより、西太平洋の地下で従来の地球プレート理論では説明できない異常領域の発見に成功したという。

 研究によると当該領域は、約40億年前のマントル形成時から存在する可能性がある。一連の研究内容が学術誌『サイエンティフィック・リポーツ』で発表された。

◆複数の地震波を組み合わせた高精度分析

 通常、地球内部は直接観察や岩石サンプルの採取が困難であり、地球物理学者らは地震波を使い間接的な観測を行っている。地震波は震源から全方向に広がり、地中で屈折、回折、反射する特性を持つ。その伝播速度は波の種類や、通過する物質の密度と弾性によって変化する。これらを観察することで内部構造を推定する。

 今回新たに、ETHチューリッヒとカリフォルニア工科大学(カルテック:CIT)の共同研究チームは、「フルウェーブフォーム・インバージョン」と呼ばれる手法を開発した。従来は一種類の地震波のみを使用していたが、この手法では複数種類の地震波を総合的に分析する。膨大な計算処理が要求されたが、スイス国立スーパーコンピューティングセンターの「ピッツ・ダイント」がこれに応えた。

◆既存理論では説明困難な異常域を確認

 研究チームは、フルウェーブフォーム・インバージョンの高解像度モデルを活用することで、西太平洋の地下に沈み込んだプレートの残骸とみられる異常域を発見した。この領域は、現行の地球プレート構造理論では説明できない場所に位置しており、地質学的観点からも比較的新しくプレートが沈み込んだ形跡は見つかっていない。ETHチューリッヒはニュースリリースで、「太平洋の下に沈んだ世界?」と表現している。

 ETHチューリッヒ地質学研究所のシャウテン博士課程研究員は「このような異常域は、従来の予測をはるかに超えて広く分布している」と指摘する。同氏は発見された異常域について、「約40億年前のマントル形成時から存在し、マントルの対流運動にもかかわらず残存した珪素に富む物質」であるか、あるいは「数十億年にわたるマントルの動きにより、鉄分の多い岩石が蓄積した領域」のいずれかである可能性があると説明している。マントルは地球の核と地殻の間に位置する層で、地球全体の体積の約8割を占めている。

◆異常域の特性解明に新たな課題

 研究グループは、課題についても語っている。シャウテン氏は「現時点のモデルでは、地震波の伝播速度という単一の特性しか把握できていない」とモデルの弱点を認める。地震波の速度は内部構造を知る重要な手がかりとなるが、複雑な構造の全容解明には不十分だという。

 そのため同氏は、「地震波の観測速度を多様化させている複数の物質について、それぞれの特性値を計算する必要がある」と述べている。ここでいう特性値は物質の密度や弾性などの性質を数値化したものだ。研究グループはより高精度な新モデルの開発を進めている。

 今回発見された西太平洋地下の異常域は、地球マントルの形成過程や内部構造の理解を大きく進展させる可能性を秘めている。