1月13日の「成人の日」に合わせて、多くの自治体で12日、13日に「二十歳(はたち)の集い」が開催される。
かつては「成人式」と呼ばれた、人生の節目を祝う晴れ舞台。華やかな晴れ着姿の若者たちはほほ笑ましいが、「一生に一度の記念だから」「大人になったんだ」という高揚感からアルコールや周囲の雰囲気に飲まれ、羽目を外してしまう者も毎年出現している。
意外に新しい「成人式」の歴史
現在、よく知られる成人式(二十歳の集い)が行われるようになったのは、意外にも最近のこと。「発祥のまち」(※)とされる埼玉県蕨(わらび)市の公式サイトでは、次のように紹介されている。
〈成年式が初めて行われたのは、終戦の翌年、昭和21年(1946年)のことでした。当時は、国全体が敗戦による混乱と虚脱感で明日への希望が見いだせずにいました。そうしたなか、蕨町青年団が中心となり、次代を担う若者たちを勇気づけ、励まそうと、「青年祭」を企画。その催しの幕開けとして行われたのが、「成年式」でした〉(蕨市公式ウェブサイト「成人式発祥の地のまち蕨」より)
青年祭には若者100人ほどが来場。当然、振り袖やはかまではなく、国民服やもんぺ姿だった。
※ 「発祥の地」については、ほかにも名乗りを上げている自治体が存在するため諸説あり
成人式の歴史をさらにひも解くと、戦後に式典が行われるよりもはるかに昔から、日本では「元服」「裳着」といった習わしがあった。公家、武家、庶民など身分によってはじまりの時期や儀式の内容などは異なるが、いずれにしても通過儀礼としての成人儀礼によって“一人前の大人”と認められるとの意味合いを持っていたようである。
酒に酔って暴行、箱乗りで暴走…各地で“やらかした”若者たち
現在は厳粛な通過儀礼というよりも、個人の成長を祝うイベントとしての側面が強くなった成人式(二十歳の集い)。“大人”としての自覚を持つ節目であることに変わりはないが、冒頭で触れたように、酒や雰囲気に飲まれて迷惑行為におよんでしまう若者もいる。
以下は、近年報道された事件の一例だ。
・20歳の専門学生が飲酒運転(2024年、神奈川県横浜市)
式典後に開かれた同窓会でビールやテキーラを飲んだにもかかわらず、車を運転して相鉄線踏切内に侵入。1時間あまり全線で運転見合わせとなり、約3万8600人に影響が出た。専門学生は酒気帯び運転容疑で逮捕、過失往来危険の疑いでも取り調べを受けることとなった。
・自称アルバイトの20歳が警備員に暴行(2024年、神奈川県横浜市)
式典会場の横浜アリーナで酒に酔った自称アルバイトの男(20歳)が警備員の男性の胸ぐらをつかむなどしたとして暴行の疑いで逮捕された。男は地元である川崎市の式典に出席後、知人と合流するために横浜アリーナを訪れたという。暴行におよんだのは、酒の入った一升瓶を落として割り、それを注意されたのがきっかけだったようだ。
・不正改造した軽トラで暴走(2023年、福岡県大牟田市)
ど派手に装飾し、車のマフラーなどを不正改造した軽トラックで会場付近を暴走、歩道に侵入したとして20歳の男2人が道路交通法違反(消音器不備、歩道通行など)の疑いで検挙された。報道によれば、逮捕ではなく行政処分として過料2万1000円を科されたという。
・酒に酔った20歳の男が暴行(2023年、神奈川県川崎市)
川崎市の「二十歳を祝うつどい」で酒や危険物の持ち込みを防止するため初めて手荷物検査が導入された2023年、式典会場に酒に酔った男(20歳)が現れ、男子大学生(20歳)の顔を殴り暴行の容疑で現行犯逮捕された。
・はかま姿で車に“箱乗り”して暴走(2022年、広島県尾道市)
成人の日の前日、はかま姿で車の窓枠に腰かけて身を乗り出す(いわゆる「箱乗り」)などしてJR尾道駅前の交差点を暴走した20歳の男らが逮捕された。尾道市ではこの日、成人式が行われる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になっていた。
・バイクで交差点内を暴走(2022年、沖縄県うるま市)
交差点内をバイクで周回するなどの暴走行為によって、建設作業員の男(20歳)が道路交通法違反(安全運転義務違反)の疑いで現行犯逮捕された。報道によれば、男は「成人式だからやった」と供述したという。
このほか、式典の主役である20歳たちにとっては“先輩”である21歳以上の若者が会場付近に現れ、車やバイクで集団暴走する事件も各地で毎年のように発生している。後輩たちの晴れの日を邪魔する彼らは、まさに招かれざる客だと言えるだろう。
かつては式典中に一升瓶を持って壇上に上がる若者の姿も見られたが、近年は入り口で手荷物検査を実施する自治体も多い(スムース / PIXTA)※写真はイメージ
北九州市の成人式は“荒れる”?
ところで、“荒れる成人式”と聞いて福岡県北九州市を思い浮かべる人も少なくないかもしれないが、一方で「近年はかなり落ち着いている」との声も聞く。市としてはどのように受け止めているのだろうか。「二十歳の記念式典」の担当者は次のように話す。
「衣装が派手だということでマスコミに出ることはありますが、迷惑行為などはほぼ行われていません。また、ここ10年くらいは、警察の介入を受けるようなことは起きていないはずです」
同市が2022年に市民6000人を対象に実施した「二十歳の記念式典」に関するアンケート調査でも、全国的に知られるようになった“ど派手衣装”に関する意見は肯定的なもの、否定的なものを含めて多く寄せられているが、暴行・暴走をはじめとする迷惑行為の横行について指摘する声は見られなかった。
逮捕者や迷惑行為におよぶ若者が出ないよう、市として取り組んでいることはあるのだろうか。
「もちろんイベントではあるので、会場周辺に警備員は配置していますし、マナーの呼びかけ、アルコール類やのぼり旗の持ち込み禁止なども実施しています。
ただ、これらはほかの自治体でも一般的に行われていることであり、北九州市だから特別な取り締まりをしているというわけではありません」(同前)
同市では今年、式典終了後に「水曜日のカンパネラ」ら若者に人気の著名人をゲストに招いた特別イベント「20th応援フェス(はたちおうえんフェス)」を初開催する。
前出の担当者は「北九州市は、新しく20歳になる方を含めて若者を応援するまちとしてさまざまな取り組みを行っています。大変なことも多い世の中ですが、これからみんなでがんばっていきましょうというメッセージが、今回のイベント開催によって伝わればいいなと思います」と、パブリックイメージの刷新について意気込みを語った。
飲酒・喫煙が解禁される「20歳」、解放感は格別だが…
2022年4月1日、民法改正によって成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたが、その後も多くの自治体では「成人式」を「二十歳の集い」などに名称変更し、対象年齢を20歳のままにしている。その背景には、これから成人となる高校生をはじめ、20歳での開催を望む住民の声の多さもあるようだ。
法律上は18歳で成人になるとはいえ、飲酒・喫煙が解禁される20歳を迎えれば、その解放感は格別だろう。今週末に「二十歳の集い」に参加する若者たちは、どうか羽目を外して晴れの日を台無しにすることのないよう、気をつけて楽しんできてほしい。