昨年10月の衆院選「議員定数不均衡で無効」だった? 弁護士らが国を提訴…“議員定数の配分”は「地方の声」をどこまで考慮すべきか

2024年10月に行われた衆議院議員選挙について、議員定数が人口に比例して配分されておらず「違憲・無効」であるとして、三竿径彦(みさお みちひこ)弁護士らのグループが、東京都内の4小選挙区と比例代表選挙の東京ブロックについて選挙無効の判決を求めた訴訟の口頭弁論が16日、東京高裁で開かれた。

それに先立ち、15日に原告の4人の弁護士が記者会見を行い、口頭弁論で陳述する内容について解説した。そこからは、「議員定数不均衡」の問題が「民主主義」「国民代表」の根幹にかかわることが、改めて浮き彫りにされた。

訴訟を通じ求めるのは「民意を適正に反映する公平な代表」のあり方

「議員定数不均衡」の問題については、選挙区の間の有権者1人当たりの投票価値が「1:●」といった「一票の較差」「法の下の平等」の問題として語られることが多い。

しかし、三竿弁護士は、もっとも重要で深刻な問題は、国会議員が「公平な代表」でなくなっており「民主主義に反している」ことだと指摘する。

三竿径彦弁護士(1月15日都内/弁護士JP編集部)

三竿弁護士:「われわれが訴えているのは、『国会議員一人ひとりが同じ数の国民を代表すべき』ということだ。

民主主義で大事なのは、民意が可能な限り適正に反映されることだ。国会議員が投じる一票の価値がバラバラだったら、民意が適正に反映されない。

たとえば、ある議員の一票が50万人を代表する1票で、ある議員の一票が国民25万を代表する1票だとしたら、 その状態で行われた多数決は正しいのか?という問題だ。

よく論じられる『一票の較差』はあくまでもその裏返しだととらえている」

そして、選挙区の区割りが以下の2段階で行われていることに着目すべきと指摘する。

①47都道府県への定数配分(区画審設置法3条2項参照)
②同一都道府県のなかでの定数配分(同3条1項参照)

アダムズ方式は最高裁が批判した「1人別枠方式」を“事実上”温存?

このうち、「①47都道府県への定数配分」については、今回の衆院選から「アダムズ方式」が採用されている。これは、都道府県の人口数をある数「x」で割り、その商の小数点以下を切り上げた数を各都道府県に定数として配分したら、その合計が総定数とほぼ同じ数になるような「x」を見つけ、それにより各都道府県への配分定数を確定する計算方法をさす(※)。

※出典:高橋和之「立憲主義と日本国憲法 第5版」(有斐閣)P.364

最高裁は2011年(平成23年)3月23日判決のなかで、従来の「1人別枠方式」が定数不均衡の要因になっており、見直す必要性があると説示した。これを受けて国会は2012年に法改正により「1人別枠方式」を廃止し、「アダムズ方式」を採用したという経緯がある。

「1人別枠方式」は、あらかじめ各都道府県に「1議席」ずつ割り振り、残りの議席を都道府県の人口数に比例配分する方式だった。人口の少ない都道府県ほど、有利な配分が行われやすいという問題が指摘されていた。

これに対し、「アダムズ方式」では、「1」未満の小数点以下の「端数」が出たら、それがどのような小さな値でも(たとえば0.01でも)「1」に切り上げるという処理を行う。

事実上、端数が出ないケースはほぼあり得ないので、結果としてすべての都道府県に「端数切り上げ」により定数が『1』ずつ配分されることになる。

実際、2024年10月の衆院選の小選挙区の議員定数をみると、東京都は「29.1078」で30議席(29⇒30へ端数切り上げ)であるのに対し、鳥取県は「1.1783」で2議席(1⇒2へ端数切り上げ)が配分されている(【図表】参照)。

【図表】都道府県別の定数配分とアダムズ方式の「商」の関係(原告訴状をもとに弁護士JP編集部作成)

原告の弁護士らは、この「1未満の端数切り上げ」の処理を行うアダムズ方式を採用したことが「事実上、1人別枠方式を温存したもの」と批判している。

アダムズ方式導入の“過程・理由”について「充実した審理を求めたい」

國部徹(くにべ とおる)弁護士は、アダムズ方式をなぜ採用したのか、その過程・理由を明らかにすべきだと説明する。

國部徹弁護士(1月15日都内/弁護士JP編集部)

國部弁護士:「あるべき配分は単純で、有権者の数を国会議員の数で割り算することだ。そうすると1人あたり約43万人ということになる。それによれば東京都の定数は『31.678』となるので、許容されるのは『31』か『32』ということになるはず。

アダムズ方式は数理的根拠があり、採用された結果、東京都では選挙区の数が『25』から『30』に増えた。しかし、『1人別枠方式』と実質的に同じ処理をする点が問題だ。

不均衡を是正する方法には他に、アメリカの下院で採用されてきた『ウェブスター方式』『ヒル方式』など、優れた方式がある。アダムズ方式はそれらと比べ明らかな偏りがあり、諸外国でもほとんど採用されていない。

なぜアダムズ方式が導入されたのか。その過程について、たとえば、選挙制度審査会の委員に対する証人尋問など、充実した審理を求めたい」

「同一都道府県内の定数配分」の問題も

以上のアダムズ方式は「①47都道府県への定数配分」の問題だが、次の段階として「②同一都道府県内での定数配分」の問題がある。

三竿弁護士:「たとえば、北海道、福岡県、茨城県等、同一都道府県内での区割りがうまく行われず、『同じ地方の大都市と周辺部との不均衡』が拡大しているという問題がある。

この原因は、選挙区の間の較差が1:2以上にならないようにすればいいという『1対2基準』『2倍未満基準』(区画審設置法3条1項)にある。

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ等と比べてもこの基準は飛び抜けて緩い。1選挙区あたりの人口をその都道府県内の基準人数(※)に限りなく近づけるべきだ」

※その都道府県に割り当てられた議員定数を人口で割った数値

「中央と地方の格差」の議論は「議員定数不均衡とは別の問題」

議員定数不均衡の問題については、昔から、「中央と地方の格差が存在するので、地方の声を多く代弁するため、ある程度の不均衡は許容すべき」などの意見も根強い。このような議論については、どのように考えるべきなのか。

三竿弁護士は、そこには国会議員の法的な位置づけに対する「誤解」が含まれていると指摘したうえで、憲法・民主主義の原則と、事実に則した議論をしていくべきと訴えた。

三竿弁護士:「憲法43条は、国会議員は『全国民の代表』だと規定している。

どの選挙区の選出議員であれ、選ばれた以上は『選挙区のため』ではなく『国全体』のことを考えなければならない。国会議員は市議会議員や市長ではない。

政治は人間のためのものだ。国会議員は人間に配分すべきもので、風、草、木、土地に配分するものではない。人が少ない地域の代表が少ないのは当たり前のことだ。地方に住む人々の生活を不便にしてはならないことと、議員定数の議論とは別の問題だ。

また、実際の数値をみても、定数不均衡の問題がより多く発生しているのは『地方と中央との間』ではなく、前述したように『同じ地方のなかでの格差』だ。

『中央と地方の格差』という議論が本当に事実に立脚したものなのか、不均衡を温存し正当化するための『議論のための議論』になってしまっていないか。注意深く吟味する必要がある」