食楽web
千葉県のラーメンシーンの全容については、近隣の都県に住む人たちはおろか、東京のラーメン好きでさえ十分に把握できている者は少ない。その理由は後で説明するとして、まずは地勢的なお話から。前提として、千葉県は全国第6位の人口規模(約630万人)を誇る「大県」だ。人口規模に比例して、実力店・人気店として位置付けられる店舗の数も極めて多い。
筆者が連載している千葉県のタウン誌『月刊ぐるっと千葉』では、同県を大きく「東葛」、「湾岸」、「北総」、「九十九里」、「中房総」、「南房総」の6エリアに分けている。千葉県のラーメンシーンを読み解くに当たっては、これに「千葉市」を加えれば分かりやすい。その千葉市を中心に、その西側に位置する東葛、湾岸、北総を〈千葉県西部(西部)〉、東側に位置する九十九里、中房総、南房総を〈千葉県東部(東部)〉と考えれば、千葉のラーメンシーンの全体像が見えてくる。

【1】東京に近接し、都内と同質のラーメンシーンが展開される〈西部〉
⇒地理的にも東京の延長線上にあるため、都内のラーメン好きが注目するような実力店が多い。例えば、都内の実力店で修業した人が千葉県で店舗を構えるのも西部が多い
【2】東京から距離があり、地域独自の麺文化が展開されている〈東部〉
⇒東京から距離があり、都内の空気を感じさせる店はそう多くない(市原市、東金市、茂原市など一部を除く)が、土地の風土に根差した地方色豊かな“地元の名店”が各地に点在
【3】西部と東部、双方のラーメン文化が入り交じる〈千葉市〉
⇒〈西部〉と〈東部〉、両者の要素が絶妙な塩梅でミクスチャーされたエリア
冒頭で少し述べたが、東京のラーメン好きでさえ千葉県のラーメンシーンの全容を把握するのが困難な理由は、まさにこの地理的な要因と千葉の広さによる。そもそも、〈西部〉と〈千葉市〉に膨大な数のラーメン店があるため、都内から離れた〈東部〉の店を攻略するまでのハードルが高いのだ。しかし、ひとたび〈東部〉へと足を踏み入れれば、その多様性と奥深さは特筆すべきものがある。近年、注目を浴びている「竹岡式ラーメン」、「勝浦タンタンメン」、「アリランラーメン」といった千葉のご当地麺は、すべて〈東部〉発祥。
『らーめん八平』のアリランラーメン[食楽web]
つまり、都内顔負けの最先端のラーメンが豊富に揃う〈西部〉、地方色を色濃く残した1杯が堪能できる〈東部〉、両者の要素が絶妙な塩梅でミクスチャーされた〈千葉市〉。これら3つの要素を併せ持つのが千葉県のラーメンシーンと言えるだろう。
今回は、ここ数ヶ月の間にオープンした千葉県の新店の中で、〈西部〉のラーメン店にあたる『麺屋 青』をご紹介していこう。
千葉西部のスーパールーキー『麺屋 青』 (鎌ヶ谷市)
東武鉄道野田線・鎌ヶ谷駅から徒歩数分
2024年10月20日に鎌ケ谷市にオープンした『麺屋 青』。店主・岩崎氏は、都内の煮干しラーメンの実力店『麺処 晴』(入谷)で6年9ヶ月にわたり修業を重ね、独立を果たした実力派ラーメン職人。
この『麺屋 青』では、店主が学生時代に通い詰めたという『自家製中華そば としおか』(早稲田)の味を独自のセンスでアレンジした「MIXラーメン」(動物系素材と魚介素材から出汁を採った白濁スープを用いたラーメン)を繰り出す。
聞けば、店舗を構えるに当たり鎌ケ谷の地を選んだのは、この場所が、店主が生まれ育った船橋市に近かったからだという。また、『としおか』は、その名を全国へと轟かせる、都内の「MIXラーメン」の名店のひとつだ。
都内の実力店で修業した者が、千葉で都内の実力店の味をオマージュした1杯で勝負を挑む。まさに、『麺屋 青』は、前述した〈西部〉のラーメン店の特徴が具現化された1軒だと言えるだろう。2025年1月現在、同店が提供するレギュラー麺メニューは、「ラーメン」、「塩ラーメン」、「つけめん」の3種類。
塩ラーメン
いずれの品も、店主が愛してやまない『としおか』の味を参考としたものだが、あくまで参考とするにとどめ、確かな戦略に基づく店主ならではのギミックが随所に盛り込まれている点が特筆に値する。節の風味を前面へと押し出し、安価な煮干しで雑味を演出するなど、特定の箇所を意図的にフィーチャーすることで、食べ手の記憶にしっかりと残る味わいをつくり出すことに成功しているのだ。
現在、開業から3ヶ月余りが経過したところであるが、岩崎店主の手により、間断なき内容のブラッシュアップが図られ、現在では、動物系由来の風味の厚みが飛躍的に増強されるなど、すでに開業当初とは別物のような進化を遂げている。今後ともその動向から目が離せない、〈西部〉期待のスーパールーキーだ。
●SHOP INFO

店名:麺屋 青
住:千葉県鎌ケ谷市道野辺本町1-1-18
営:11:00〜14:30、18:00〜21:00
土日祝11:00〜14:30
休:水
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。