
彫刻家の腕前
こんにちは。アンヌです。
冬の真っ最中ですが、アラフィフあるあるで、家での私は半袖のことも。でもやっぱり、ほかほかのスープが欲しくなります。そこで、まずはにんにくの塊をごろごろとお鍋にイン!
レシピの始まりは、ノルマンディー(フランス北西部の地方)の台所です。劇作家のセカンドハウスに両親と共に招かれ、数名の芸術家たちと一緒に晩夏を楽しんでいました。食事当番は交代制。台所に立つ彼らのお料理はとびきり美味しく、10代の私はどんどん食に関心を持つように。
さて。ある晩。なにやら台所が騒々しい。のぞいてみると、80年代当時パリで注目を浴びていた画家と彫刻家が、特産のトゥルトー(イチョウガニの一種)の茹で方で揉めてるようでした。水からか入れるか、沸騰させてからか。調理法の対立は、次第に大喧嘩に発展。芸術家とは、信念を貫くものなんだなぁと驚きつつ、いつまでも夕食ができないので、私は大人たちを残して先に寝てしまいました。
翌朝起きてみると、家の中は静まりかえっています。昨晩のカニ騒動のせいなのか、残っていたのは家のあるじと我が家。そして彫刻家。きっと彼の主張した茹で方が通ったのでしょう。ただ、すでに食料は枯渇していて、昼食に困りました。その晩にはパリに帰京するので買い出しには行けません。どうしようかと膝を突き合わせていると、彫刻家が台所から現れました。にんにくがたくさん残っているぞと嬉しそう。
「これでお腹がいっぱいになるスープを作ってあげよう」。
加えるのは、わずかに残った玉子と『シュヴーダンジュ』。天使の髪の毛という名の、どこの家庭にも備蓄されている細かいショートパスタです。そして私に、セージの葉を庭からたくさん取ってくるよう言いつけました。
お腹を満たす美味しいスープがこれだけで作れるのかしら。
しかし出来たてを一口食べてみると、嘘ではありませんでした。ほろほろになったにんにくが良い出汁となり、セージの香りと苦味が全体の味を引き締めて、素晴らしい味わいに。
たっぷりの水ににんにく(ひとり4~5かけ)を入れ、弱火で長時間茹でる。シュヴーダンジュと生のセージの葉(ひとり2~3枚)を入れ、溶き玉子を回し入れる。最後に塩胡椒。それだけなのですが。
以来、我が家ではこのスープに大はまり。今ではにんにくだけを煮て潰し、ブイヨンやソースのベースに活用するまでとなりました。
さあ、まだまだ寒い日が続きます。あったかスープの絵本をレシピにいかがでしょうか。
*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

『チキンスープ・ライスいり』
作/モーリス・センダック
訳/じんぐうてるお
(1,100円 冨山房)
いつだってとびきり美味しいお米を入れたチキンスープ。その楽しみ方を、月ごとに紹介します。突飛なアイデアとリズミカルな文が奏でる、ユーモアたっぷりのカレンダー式絵本。6月は薔薇の水やりにスープ。10月はゲストの幽霊に。11月は自ら鯨になって噴き上げるのも、もちろん……! 絵もとても洒落ていて、ウキウキしてきます。風邪をひいた時の民間療法としても食されるチキンスープ。ユダヤ人のルーツを持つ作者ならではです。

『せかいいち おいしいスープ』
作/マーシャ・ブラウン
訳/こみやゆう
(1,760円 岩波書店)
むかし、3人の兵隊が故郷に帰ろうとしていました。へとへとなうえに、お腹はペコペコ。とある村に立ち寄り、食べ物を恵んでくれと頼みます。ところが村人たちはケチで相手にしてくれません。仕方がないので、3人は石のスープを作ると宣言。するとそんなものでスープができるのかと人だかりが。そこで、鍋が必要だと言うと、村人のひとりが貸してくれます。あと、水も。それから石もと要求すると、次々と。果たしてスープの味は?フランスの昔話をもとに描かれた、知恵が輝く傑作です。
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