「長男の嫁なら義両親の介護は当然」というのは、ひと昔前の話です。時代が変わり、親も子も常識は変わった……と思いきや、いまだに“長男の嫁”に縛られるケースは少なくありません。ゆめプランニング代表の大竹麻佐子CFPが、具体的な事例をもとに相続対策の有効性と法的解決策について解説します。

義父の介護のため、泣く泣く介護離職した「長男の嫁」

都内に住むAさん(55歳)には、3歳年上の夫がいます。夫は長男のため、Aさんはいわゆる「長男の嫁」です。

義両親はA夫婦の家の近くに住んでいます。ある日、義父が転倒して骨折し、要介護状態に。義母も高齢で、夫は仕事が忙しいことから、Aさんが介護をすることになりました。

A夫婦はそれまで共働きでしたが、介護の負担が重く、Aさんは泣く泣く介護離職する決断をしました。

夫には、3歳年上で静岡に住む義姉がいます。離れて生活しているとはいえ、新幹線を使えば2時間もかかりません。

「介護が大変で……。週末の時間があるときだけでもいいので、少し手伝ってくれませんか?」

介護離職をするかどうか悩んでいたころ、Aさんがそう義姉に連絡したところ、義姉は冷たく突き放しました。

「なんでわざわざ都内まで交通費かけて私が介護しにいかなくちゃいけないの」

「甘えないで。長男の嫁なんだから当然でしょ」

「仕事を辞めて専業主婦なんて羨ましいわね」

……Aさんに感謝のひと言もなく、好き勝手に嫌味を言う始末です。

その後も、義姉は義両親の様子を1度も見に来ることはありませんでした。

そんなAさんを支えてくれたのは、夫と義父の存在です。週末には夫が率先して介護を手伝ってくれ、義父からも毎日感謝の言葉をもらっていたことで、Aさんはなんとか耐え抜くことができました。

そして昨年、3年間の献身的な介護の末、義父は逝去。通夜では、生前ほとんど義両親のもとを訪れなかった義姉が、なんのアピールか「慰めて」と言わんばかりに号泣しています。義父が亡くなった悲しみとともに、義姉からの言葉や態度を思い出し、Aさんは「許せない……」と悔し涙が溢れました。

そして、葬儀が終わり、遺産分割について話し合うことに。義姉は、「申し訳ないけど、Aさんは“他人”だから」と、同席さえも拒みます。これまで長いあいだ家族として義父と向き合い、昼夜問わず介護をしてきたAさんからすると、こうした“のけ者扱い”は酷すぎる仕打ちだと感じずにはいられませんでした。

(広告の後にも続きます)

傍若無人な姉を黙らせた“夫のひと言”

そんな2人のやり取りをみていたAさんの夫がついに口を開きました。

「姉さん、いい加減にしろよ。大丈夫だよA、遺産はAの分もあるから」

「いやいや、そんなわけないでしょう。Aちゃんには遺産を受け取る権利がないのよ」

義姉が反論すると、夫は淡々と次のように説明します。

実は、義父は生前「Aさんには感謝してもしきれない。お礼の気持ちも込めて、Aさんにも財産を遺すから」と息子である夫に伝えていたのです。

具体的には、父親は知り合いの専門家に相談のうえ、死亡保険金の受取人をAさんとすることで、相続権のないAさんにも財産を遺せるように対策しました。さらに、姉の性格上、相続で揉める可能性が高いと考えた父親は、姉には遺留分相当の財産のみを相続させ、あとは配偶者である義母と息子である夫とで遺産を分けるよう「公正証書遺言」を作成していたのでした。

「……」

遺産の取り分が予想より少なくなったとはいえ、もっとも平和な解決策に、姉はぐうの音も出ませんでした。