国税トラブル専門の解決窓口である、「国税不服審判所」をご存じでしょうか。裁判所とは異なり、司法ではなく税務行政部内における第三者的機関として機能しています。税理士である高橋創氏が、この「国税不服審判所」での裁決事例のなかから、相続に関するトラブルを取り上げ、裁決にいたった経緯について解説します。

税務署に目をつけられやすい「贈与」

相続税や贈与税の申告をする際、「計算」にあたってやっかいなのが、不動産や株価の評価です。

一方、申告後の税務調査など、「事実関係の確認」において一番やっかいなのが、現金や預金です。現金を使って購入されたものは領収書などがなければ用途がわかりませんし、単に預金口座間をお金が動いているだけですと、第三者からみてその資金移動の目的が読めません。

したがって、資金の動きを怪しく感じる税務署と正当性を主張する納税者のあいだで、数多くの争いが起こるわけです。

こうした税務トラブルのほとんどで判断の決め手となるのが、「本当は誰のもの?」「実際には誰が使った?」という事実認定です。

では、「贈与」が疑われる事例において、国税不服審判所はなにをもってその「事実」を認定したのでしょうか。実際の裁決事例をみていきましょう。

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数年にわたり父、母から「資金移動」

今回取り上げるのは、平成31(2019)年2月7日の裁決事例です。

Aさんは数年にわたって、父や母の口座からAさんの口座に資金を移動させる形で両親からお金を受け取っていました。

これが贈与に該当するものであれば、Aさんは贈与税の申告をするべきところです。しかし、申告がされていなかったことから、この事実を認識した税務署は、「Aさんに贈与税の申告義務がある」と判断しました。

また、父が亡くなった際、Aさんが負担すべきであった相続税が母名義の口座から納付されていたことから、Aさんに対して贈与税を支払うよう決定処分を行いました。

しかし、この処分に納得できないAさんは、処分の取り消しを求めて国税不服審判所に審査を請求。Aさんは審判の途中で亡くなったため、その後はAさんの相続人である兄と妹が引き続き争うこととなりました。