日々の暮らしに欠かせないお金。お小遣いやバイトなど、小さいころから「無駄遣いするな」「お金は大切にしろ」と厳しく育てられてきた人も少なくないでしょう。なかには、いくらお金があっても「減るのが怖い」と使うのをためらってしまう人も……。とある男性の事例をもとに、不安の原因と解決策をみていきましょう。

「質素・倹約」を徹底…60歳で〈貯金1億円〉を達成

――社会に出たら真面目に働き、質素に暮らして、きちんとお金を貯めなさい。

東山徹さん(仮名・60歳)は、幼いころから両親にそう言い聞かせられてきました。

素直に育った東山さんは、その教えを忠実に守るべく、学生時代から貯蓄をスタート。就職後、社会に出てからも贅沢を避け、収入の大半を貯蓄に回す生活を続けてきました。

東山さんが入社したのは、大手スーパーです。その責任感の強さや堅実な仕事ぶりから若くして店長に昇進し、店の売上に貢献してきました。

そんな東山さんの休日は、家で好きなコーヒーを飲みながら無料のスマホゲームや動画視聴を楽しんだり、図書館で本を読んだりと、余計なお金がかからないよう生活していました。

また、どんなに忙しくてもほとんど外食しないため、食費は月1万円を切ることも。ブランド品にも関心がなく、必要最低限の服を着回して過ごしていました。そんな生活ですから交友関係も極めて狭く、会社の同僚と遊びに行くこともありません。せっかくもらった飲み会の誘いも「お金がもったいない」と断り、社交の場に出る機会もほとんどありませんでした。

そんな東山さんは、先日60歳となり定年を迎えました。長年コツコツと貯めてきたお金に加え、退職金と数年前に両親から相続した財産をあわせて、東山さんの資産は1億円に到達しました。

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「貯金1億円」を達成した東山さんの悩み

しかし、定年後の東山さんはある感情に悩まされます。それは「孤独感」です。

これまでは毎日仕事に追われる日々で、休日も「平日の疲れ」を癒すことが大きな目的だったことから、孤独を感じる暇などありませんでした。しかし、定年を迎えてふと仕事が自分の手から離れたとき、自分には「やりたいこと」がなにもないことに気づいたのです。

現役時代の息抜きに重宝していたスマホゲームや動画視聴も、時間がありすぎるせいかすぐに飽きてしまいます。朝起きても特に予定がなく、ご飯を食べて寝るだけの日々。考えごとをすることが増え、気持ちが滅入っていきました。

また、年金の受給が始まるのは65歳になってから。60歳の東山さんは、あと5年間年金を受け取ることができません。そのため定年後、家計は約15万円の赤字となってしまいました。

1億円の貯金があるとはいえ、これまでの人生でずっとお金を貯めることを最優先にしてきた東山さん。貯金が目減りしていくことに、耐えがたいストレスを感じていたそうです。