87歳女性「おにぎり2個518円」万引きが物議…高齢者が犯行におよぶ“歪んだ倫理観”とは

北海道苫小牧市で87歳の女性がおにぎり2個を万引きし逮捕された。店舗の被害額は518円。報道によると、女性は容疑を認めているという。

その年齢や被害額から、インターネット上では、「生活に困窮していたのか」「お金に困っていたわけではないだろう」「認知症なのか」といった憶測や、「裏金議員と同列に扱うような事件なのか」といった意見がみられた。

数百円の万引きをする高齢者の心理

これまでに6000人以上の万引き犯を確保してきた現役の万引きGメン・伊東ゆう氏は、高齢者の万引きについて次のように解説する。

「実は万引き犯の多くは高齢者です。たいていの場合、理由は金銭的な問題ではなく『節約のため』と言うんです」

「節約のための万引き」とは、倫理観が歪んでいるように思える。伊東氏は実際に、高齢者を確保したときの様子を明かす。

「過去に確保した高齢万引き犯は『今回は見逃してよ』と言ってきました。それほど罪の意識があると思えない、軽い感覚の人が多いんです。平日の昼間など閑散とした店内で、セルフレジ導入店も増え、万引きしやすくなっていることも無関係ではないでしょう」

いつ万引きを決意するのか

伊東氏はさらに、高齢者が万引きに至る行動パターンについて補足する。

「初犯の場合、ほとんどの高齢者は店内に入ってから万引きを決意しています。買い物に来て、店内を移動しているうちに、万引きできる環境であることを認識。そして、その誘惑に負けてしまう…」

こうしたことから、高齢者の万引きはかなり蔓延している可能性もある。

調査でも鮮明な「高齢者万引き」の蔓延

全国万引犯罪防止機構による 「全国万引対策 実態調査報告書」(2020年6月公開)内の「全国の万引き検挙・補導人数の年齢構成別割合推移」(警察庁統計)は、それを裏付ける結果となっている。

同報告書によると、高齢者による万引きの割合は、2004年の17.1%から2019年には38.3%に増加。2012年前後には高齢者の万引き割合が若者の万引き割合を上回り、それ以降も増加を続けている。

なかでも特に高齢女性の割合が高く、50歳以上が過半数を占めている。県によっては、高齢者万引き割合が全体で5割を超えるところもある。

万引き最前線の現場の本音

2024年4月に全国万引犯罪防止機構が発表した「第14回全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査分析報告」では、店舗側の万引き対策や被害状況などが報告されているほか、生の声も掲載されており、万引き対策に苦慮する現場の様子が伝わってくる。

マイバッグの利用増加に伴う万引き被害
(出典:第14回全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査分析報)

たとえば、レジ袋有料化に伴う万引き被害の増減については、「変わらない」が31.7%、「増えた」が27.2%、「減った」は0%。セルフレジ導入による万引き被害の増減については、「変わらない」が29.3%、「増えた」が25%、「減った」は0%だった。

万引き対策で困っていることや万引き対策の提言については、自由回答で次のような声が上がっていた。

「人員削減で見張りができない」
「窃盗犯の情報共有が進んでほしい」
「マイバック利用により窃盗の判断がつきにくくなった」
「万引き窃盗対策を強化すると、疑われているようで不快だとクレームが増える」
「セルフレジで未精算が時々ある」

「警察がなかなか動かない」の声も

万引き被害を認識しながらも、被害を見逃している状況に、蔓延する万引き被害の深刻さがうかがえる。こんな声もあった。

「現行の法律上、誤認逮捕について店舗側のリスクが高すぎる。犯人は捕まってもすぐに釈放され、万引き、盗難を繰り返している」
「窃盗の瞬間の映像や車のナンバーまでわかっているのに警察は動かない(被害届3件、同一人物)。被害届を出すたびに2~3時間とられるので仕事にならない」

冒頭の80代女性のような万引きは「氷山の一角です」と伊東氏。続けて、「高齢者の万引き犯で多いのは独居の人や周囲との関係性が薄い人。“悪いこと”だとはわかっているのですが…」

さまざまな状況・事情から歯止めをかける機能が不全になっている社会構造。そこに、一向に減らない “万引き問題”の根っこが ありそうだ。