大きな地震が起こる度に、ニュース番組に映し出される倒壊した住宅の数々。
それを見て「我が家は大丈夫だろうか?」と、不安を抱いている方も多いでしょう。
築年数が経った住宅は耐震性能が不十分なことが多く、大地震が発生した際に倒壊を防ぐためには耐震補強工事が必要です。
特に築50年の住宅は耐震性能が低い可能性が高いので、できるだけ早く耐震工事を行ったほうがよいでしょう。
本記事では築50年の家の耐震性能や必要な耐震工事、費用などを解説します。
実際に耐震工事を行った事例や費用を抑えるポイントもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
1.築50年の家の耐震性能はどのくらい?
住宅の耐震基準は建築確認(建築基準法に適合しているかの審査)を受けた時期によって異なり、それが耐震性能をはかる指標のひとつになります。
建築確認日による基準の違いと、地震発生時の倒壊リスクは以下のとおりです。

2025年時点で築50年の住宅は旧耐震基準にあたるため、耐震性能がとても低く、震度6程度を超える大地震が発生した際には倒壊の危険性があります。
また、木耐協によると実際に旧耐震基準の家で耐震診断を行った結果、75.1%の住宅が「倒壊する可能性が高い」と診断されました。
対象住宅
1950~2000年5月までに着工された木造在来工法2階建て以下の住宅
2006/4/1~2023/12/31の期間で木耐協が耐震診断を行って、詳細が確認できている28,940棟

出典:『木耐協 調査データ最新版<2024年2月15日版>』
ただし実際の耐震性能は住宅のさまざまな要因によって変わってくるので、どのくらいの揺れに耐えられるのかは、耐震診断を受けなければわかりません。
耐震工事を検討されている方は、まずは耐震診断を受けることから始めましょう。
次章では耐震診断をはじめとして、築50年の家に必要となる耐震工事の内容や費用について説明していきます。
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2.築50年の家に必要な耐震工事・費用
耐震工事にかかる費用は住宅の状態によって異なりますが、100〜200万円が目安です。
木耐協の調査でも、旧耐震基準の耐震工事にかかった金額は、100~200万円が36.9%と、もっとも多くなっています。

しかし前述のように、必要な耐震工事は住宅の状態によって変わってくるので、部分的な費用も気になるところです。
この章では、耐震診断にかかる費用や部分的な耐震工事の費用を見ていきましょう。
2-1.耐震診断
耐震工事を行うにあたって、まずは家がどのくらいの揺れに耐えられるのかを調査するために、『耐震診断』を実施します。
診断にかかる費用は、一般診断で10万円、精密診断で20万円、耐震設計で30万円が目安。すべてを行うと、60万円前後はかかります。
しかし旧耐震基準の家に関しては自治体が補助金を支給していることが多く、要件を満たせば費用負担を軽減することもできます。
たとえば東京都練馬区では、防災まちづくり事業実施地区内の住宅ならば、20万円を上限として、耐震診断にかかる費用の全額が補助対象になります。
(参考:練馬区『住宅の耐震改修工事等の助成』)
お住まいの地域の自治体で、耐震診断に関する補助金制度がないか、事前に確認してみるとよいでしょう。
耐震診断では、間取り、壁の材質、筋かいの有無、屋根の重さ、劣化状況などのさまざまな観点から、住宅の耐震性能を調査します。
耐震診断の結果は総合評価(評点)で算出され、数値と倒壊リスクは以下のとおりです。
倒壊リスク
1.5以上 | 倒壊しない |
1.0~1.5未満 | 一応倒壊しない |
0.7~1.0未満 | 倒壊する可能性がある |
0.7未満 | 倒壊する可能性が高い |
耐震診断では耐震性能だけではなく建物の弱点などもわかるため、診断結果をもとにした耐震補強案も提出されます。
耐震工事ではそれらを参考にしながら、必要な箇所を補強します。
▼関連記事
耐震診断の費用相場を診断方法別に完全解説!補助金制度や業者選びも
2-2.壁の耐震工事
住宅は柱や梁、床、壁、基礎などの躯体(くたい)によって支えられていますが、築50年の家は、壁の量が不十分だったり配置がアンバランスだったりすることが多いです。
ブロックが減るほど倒れやすいパーティーゲームのジェンガのように、住宅の壁も量と配置が不安定になると家全体が不安定になります。
大きな揺れに耐えるためには、壁の量や配置が重要になるのです。
そこで耐震工事で多く採用されているのが、耐力壁による耐震性能の確保です。
柱と柱の間に『筋かい』と呼ばれる補強材を入れたり、必要箇所に『耐力面材』を追加したりして、住宅の耐震性能を高めます。

耐力壁による耐震工事の費用相場は以下のとおりです。
工事内容費用相場
筋かいによる補強 | 5~20万円/箇所 |
耐力面材による補強 | 9~15万円/箇所 |
住宅全体の補強 | 150~200万円 |
耐力壁は1箇所だけに追加すればいいわけではなく、対角線上にも同じように耐力壁を入れるのが基本です。
壁の量とバランスが不安定な住宅ほど耐力壁も多く必要になるため、その分全体にかかる費用も大きくなります。
2-3.柱の耐震工事

築50年(旧耐震基準)の住宅は震度5の地震に耐えることを基準として建てられているため、柱の強度が低く、本数も現行基準より少なくなっています。
耐震性能を高めるためには柱の本数を増やす方法もありますが、その場合は基礎からの改修と補強が必要になるため、費用は100万円〜が目安。施工期間も長くなります。
そこで多く採用されるのが、金物の設置と、朽ちた部分の補修です。既存の柱に金物を取り付けることで耐震性能を高めるので、柱を追加するよりも費用を抑えられ、工期も短くなります。
費用相場を見てみましょう。
工事内容費用相場
金物の設置 | 5~20万円/箇所 |
朽ちた部分の補修 | 1~5万円/箇所 |
柱の追加、基礎の改修 | 100万円~ |
上記を見てわかるように、部分的な補修と基礎からの改修だと費用が大きく異なります。
しかし柱の老朽化は住宅の倒壊のリスクを高める要因になるため、費用だけにとらわれず、耐震診断に応じて適切な方法を選びましょう。
2-4.屋根の耐震工事

屋根の重みは、耐震性能を低下させる要因のひとつです。
築50年の住宅では和瓦のように重みがある屋根材が使われていることが多いため、耐震性能を高めるためには軽量な屋根材への葺き替えを検討しましょう。
費用相場は以下のとおりです。
軽量な屋根材費用相場(30坪)
スレート | 70万~200万円 |
ガルバリウム鋼板 | 100万~200万円 |
アスファルトシングル | 90万~190万円 |
屋根のリフォームには既存屋根の上から新しい屋根材を被せる『カバー工法(重ね葺き)』もありますが、重量が増えてしまうため、耐震工事には適していません。
費用は高くなってしまいますが、住宅の耐震性能を高めるのなら必ず葺き替えを選びましょう。
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屋根の葺き替えリフォーム費用相場|安く抑える方法は?
2-5.基礎・土台の耐震工事
どれだけ壁や柱に耐震補強を行っても、その土台となる基礎部分の耐震性能が低ければ、大地震に耐えることはできません。
特に築50年を超える住宅は基礎がもろくなっていることや、腐食やひび割れ、シロアリの食害を受けていることがよくあります。
その場合は基礎の補強や補修が必要になり、次のような費用がかかります。
工事内容費用目安
基礎の増し打ち | 40~60万円 |
ひび割れの補修 | ・樹脂の注入:1~2万円/m ・シールの貼り付け:4,000~6,000円/m ・繊維シートの貼り付け:2万円前後/m |
シロアリ駆除、予防 | 駆除・予防ともに 3,800~10,000円/坪 |
基礎部分に鉄骨が入っていない場合は、鉄筋やプレートの追加やコンクリートを充填する増し打ち工事を行うのが一般的です。
ひび割れやシロアリの食害がみられる場合は、状態に合わせて補修やシロアリ駆除を行います。