「病気から回復する人が激減する」高額療養費制度引き上げ“白紙撤回”求め医師・患者ら訴え

高額療養費制度の自己負担の限度額引き上げに反対する全日本保険医団体連合会(保団連、全国の医師・歯科医師約10万6000人で構成)は3月13日、東京・永田町の議員会館前で「いのちをまもれ!白衣のアピール行動!」と題した抗議行動を実施。限度額引き上げの「白紙撤回」を訴えた。

その声が届いたのか、同日、国会の衆院予算委員会で、石破茂首相は「(引き上げ方針は)私の判断が間違いだった」と述べた。

永田町に響くシュプレヒコール

「高額療養費引き上げは撤回を!」

「患者さんの命を守れ!」

「命を最優先する予算を!」

シュプレヒコールが永田町にこだました。国会議事堂のすぐ裏手にある衆議院第2議員会館前に、保団連幹部、高額療養費制度を利用する患者、国会議員ら約150人が集まった。

アピール行動の冒頭、保団連の竹田智雄会長は、「国民皆保険制度は、(患者)本人が望む最善・最新・最高の医療をお金の負担なく受けられる制度。この制度を守り維持・発展させることを念願として活動している」と保団連の活動趣旨を述べ、「高額療養費の限度額引き上げはこれを大きくはばむものだ」と批判した。

保団連が2月に発表したまとめでは、子どもを持つがん患者を対象にした調査(420人から回答)で、限度額が引き上げられた場合、4割が「治療を中断する」、6割が「治療回数を減らす」との回答を寄せたという。

この結果に対し竹田会長は、「(患者の)命に直結することになる。(方針の)凍結では不安、いつ凍結解除になるか分からず不安を助長する。絶対に治療をあきらめさせないために、限度額引き上げの撤回を求める」と、方針の「白紙撤回」を強く要望した。

オンライン署名でも15万人が「撤回」に賛同

がんなど高額な医療費が掛かる疾病の治療・手術等を受けて、ひと月に自己負担の上限額を超えた場合、超えた額を国が支給する高額療養費制度。制度を利用している人は、保団連によると1250万人にも上る。

上限額は年齢や所得によって異なる。たとえば、70歳以上、年収約370~770万円の患者で100万円の医療費(窓口負担は3割負担の30万円)の場合、制度利用後の自己負担額は8万7430円となる。

この自己負担額を増額させようというのが、限度額引き上げだ。

限度額引き上げを含む2025年度の政府予算案が3月4日に可決されたが、保団連など関係諸団体等から反対の意見が相次いだ。政府修正案では、引き上げに伴う1950億円の受診抑制を見込んでいたことも「命をないがしろにする姿勢」(3月4日の保団連・抗議声明)と国民の反発を招いた。

保団連が衆議院予算採決後の3月4日にオンライン署名サイト「Change.org」で撤回を求め行った署名でも、開始後、わずか2日間で15万筆の賛同が寄せられた。

元患者「制度改正が行われれば、病気から回復する人が激減する」

13日の抗議行動では、高額療養費を実際に利用している患者たちも切実な思いを訴えた。

肺がんを患い、2人の子どもを育てながら7年間にわたって闘病を続けている水戸部ゆうこさんは、自らの経験も踏まえ、「(限度額引き上げは)子育てをしながら一生懸命闘病して生きようとしている人たちの望みを切り捨てるようなやり方です」と憤りを示した。

水戸部さんは自身が聞いた「(療養費を払う)貯金がなくなれば僕の命は終わりだ」という若者の声も紹介。「若い人たちがあきらめて希望を失ってしまう。そうさせない日本にしてほしい」と力を込めた。

同じく肺がん闘病中の松下雪さんは、「薬の副作用で仕事を辞め、アルバイトと貯金を切り崩して、治療と生活を成り立たせている。病気になりたくてなったわけではない。どうか国には見捨てないでいただきたい」と語った。

大腸がんを克服した元患者の矢作隆さんは、「ステージ4の大腸がんだったが、高額療養費制度のおかげで寛解を迎える(治癒する)ことができた。制度改正が行われれば、(治療を検討、中断し)病気から回復する人が激減すると思う。患者にとって必要な治療を抑制されるなどとんでもないこと。治療を受けやすい社会になるよう切に願う」と話した。

石破首相「私の判断が間違いだった」

患者、そして患者の家族らにとって支えともなる高額療養費制度。

報道によると、石破首相は3月7日、今年8月に予定していた引き上げを見合わせ、今年秋に改めて方針を決定する旨を官邸内で表明した。さらに、13日の衆院予算委員会では限度額の引き上げについて問われ、「私の判断が間違いだった」と述べた。

限度額引き上げ方針は文字通り「白紙撤回」されるのか。医師や患者らの訴えは続く。