
今年の春闘は12日、集中回答日を迎えた。
報道によると、トヨタ自動車は労組側からの最大2万4450円の要求に対し、満額回答。外食や流通、繊維などの労働組合からなるUAゼンセンは13日、一次集計結果を発表し、パート従業員の平均賃上げ率が過去最高を更新する6.53%に達したことを明らかにした。
各紙が大手企業の満額回答を報じるなか、公務や医療関係、中小零細企業の労組が多く加盟する全国労働組合総連合(全労連)らによる、国民春闘共闘委員会(国民春闘共闘)が14日、都内で会見。第1回の集計結果は単純平均で7499円、改定率2.79%であったと発表した。
会見に出席した全労連の黒澤幸一事務局長は「求めてきた水準には全く及ばない」として、今後もストライキの実施などを通じ、交渉を重ねていくことを表明した。
「大企業と中小企業での二極化、打開できていない」
国民春闘共闘は、今年の春闘で、実質賃金の低下と物価高騰を受け、月額3万2000円以上、時間額200円以上、10%以上の賃金引上げを要求。
「今回の集計結果は、25年ぶりの高水準となった昨年の初回集計(7513円)と同じくらいにはなりましたが、私たちが求めてきた水準には全く達していません。
大企業の賃上げ状況が12日から発表されていますが、高水準での賃上げ回答が出ているのは一握りの超大企業だけという状況です。
中小企業はそうした賃上げ水準に及ばず、大企業と中小企業の二極化は打開できていません。また、中小企業の中でも、業績によって大変ばらつきがあるというのが今年の春闘の特徴だと思います」(黒澤氏)
「医療や介護、福祉は厳しい結果続く」
黒澤氏はもうひとつの今年の特徴として、医療や介護、福祉の分野で働くケア労働者の賃金引き上げを巡って「厳しい結果が続いている」ことを挙げた。
「介護や社会福祉分野での賃上げ額は単純平均で7000円台と昨年より少し上がりましたが、それでも他の産業と比べると低い状態です。
さらに、昨年の年末一時金(冬のボーナス)が30~40万円と引き下げられた医療の分野では、大幅な引き上げの必要があったはずですが、賃上げ額は5411円にとどまっています」(黒澤氏)
「中高年の賃上げ抑制広がる」
回答を引き出した359の組合のうち、現時点で妥結に至っているのは8.9%にあたる30組合。
「一昨年までの、賃金の引き上げとすら言えない状況を考えれば、昨年に続き、今年も賃金引き上げの流れは維持できていると考えています。
しかし、昨年よりも物価が高騰している中で、それを超える賃上げには至っていません。
また、賃上げ原資を初任給に振りわけ、中高年の賃上げは抑制するという状況も広がっており、人件費の総額を上げないための調整を加えているところもあるようです。
この点を含め、すべての労働者のさらなる賃金引き上げを実現するため、これからの約1か月間が山場になります。
昨年の春闘では第1回の集計後も交渉を続けた結果、最終的には加重平均で5桁の水準(1万163円)での引き上げを実現しました。今年もすでに3月13日に全国統一行動として、相当数のストライキを実施しましたが、さらなる上積みを求めてストライキを含めた交渉で引き続き春闘をたたかっていきます」(黒澤氏)
40代、50代の賃金「頭打ちとなる傾向」
この日の会見には出版労連や、生協労連などの担当者も出席。
金属産業などの中小企業労組が加盟する日本金属製造情報通信労働組合(JMITU)の三木陵一中央執行委員長は現在の回答状況について「労働組合の頑張りで変化はつくりだせているが、物価高騰には追いつけていない」と評価した。
「先ほど黒澤委員長の話にもあったように20代の賃金が引き上げられているものの、40~50代の賃金が頭打ちとなる傾向が見受けられました。
今後は中高年や非正規の賃上げを交渉の土台にし、大幅な賃上げを求めていきたいです」(三木氏)
医療・介護現場「政府にも賃上げ要求」
また、医療や福祉、介護の現場で働く労働者らからなる日本医療労働組合連合会(日本医労連)の米沢哲(あきら)書記長は「物価高騰に追いつく、追いつかないというレベルではない」とコメント。厳しい現状について次のように話した。
「昨年の医療機関や介護施設の倒産件数や休業、廃業の件数は過去最高を更新しており、経営の厳しい事業所も増えています。
現場では離職する人の数が増え、病床の閉鎖や、長時間労働を提案される人が増えており、こうした状況が続けば、地域の医療や介護にも影響を及ぼす恐れがあります。すでにそうした事態が起きているとの声も寄せられています。
医療や介護の職場は、診療報酬や介護報酬という、報酬制度の中で運営せざるを得ません。
使用者の努力だけで、大幅な物価高騰に対応するだけの賃上げを実現するというのは非常に厳しい状況。引き続き、職場との交渉を強めつつ、政府にも賃上げ対策を求めていきたいです」(米沢氏)