近年、日本では物価上昇が続き、「このままインフレが進むのでは?」と不安を感じる人も増えています。一方で、過去に高インフレを経験し、それを克服した国もあります。

これらの国々は、どのような政策でインフレを抑えたのでしょうか?また、そこから日本が学べることは何なのでしょうか?本記事では、インフレの仕組みとその影響を整理した上で、各国のインフレ対策を紹介し、日本にとっての教訓を探ります。

インフレとは?なぜ起きるのか? 


インフレ
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インフレとは、物価が継続的に上昇し、お金の価値が下がる現象を指します。例えば、昨年100円で買えたパンが、今年は120円になっているような状況です。インフレの主な原因としては以下のようなものがあります。

・需要が増える(人々がたくさん買い物をする)

・供給が減る(生産が追いつかない、原材料が高騰する)

・政府が紙幣を大量発行し、お金の価値が下がる
・外部要因(戦争、災害、エネルギー価格の高騰など)

インフレが進むと、給料が上がらないまま物価だけが上昇し、生活が苦しくなります。また、貯金の価値も目減りし、お金を持っているだけでは損をする状況になりかねません。

インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある

一方で、適度なインフレは経済成長の証でもあります。例えば、企業の利益が増えて賃金も上がった結果、需要が増えて物価が上昇していくような「良いインフレ」は、景気が健全に成長している証拠です。

しかし、物価が急上昇して賃金の上昇が追いつかない「悪いインフレ」になると、国民の生活が苦しくなり、経済全体に悪影響を及ぼします。

インフレが続くとどのような問題が起こるのか?

インフレが長引くと、生活費の上昇によって家計の負担が増えるため、所得が低いほど影響を受けやすくなります。企業もまた、仕入れコストや人件費の増加に直面し、利益の圧迫が避けられなくなるため、経営が不安定になる可能性が高まるでしょう。さらに、貯蓄の価値が目減りし、現金を持ち続けるリスクが大きくなることで、投資へ資金を移す動きが加速することが考えられます。

こうした状況の中で、通貨の価値を守るために投資家が資産を国外へ移し始めると、通貨安が進行し、金融市場の不安定化に繋がることもあります。その結果、通貨の信用が低下し、さらなるインフレの加速を引き起こす悪循環に陥る恐れがあります。

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各国のインフレ克服事例


国旗
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国内がインフレとなり、それを克服したいくつかの事例を紹介します。まずは日本からです。

戦後日本の事例

第二次世界大戦後、日本政府は戦争による莫大な費用を補うため、大量の紙幣を発行しました。さらに、戦後の社会混乱により物資の供給が追いつかず、深刻な品不足が発生したことで物価が急激に上昇しました。その結果、1945年からわずか4年間で、物価はおよそ20倍にも跳ね上がり、国民の生活は大きな打撃を受けました。

この事態を収束させたのが、アメリカの経済顧問ジョセフ・ドッジの提言による「ドッジ・ライン」です。日本政府は、以下の政策を行いました。

・政府支出の大幅削減
・日本銀行の国債引き受けの禁止
・金融引き締めにより市場で流通するお金の量を制限
・1ドル=360円の固定為替レートを導入し、円の信用を確立

その結果、インフレの克服には成功しましたが、急激な財政引き締めによる「ドッジ不況」も発生したため、景気が一時的に低迷しました。

ドイツ(1920年代)

第一次世界大戦後のドイツ(正しくは「ワイマール共和国」)は、多額の戦争賠償を負担するために、大量の紙幣を発行しました。その結果、通貨の価値が急激に下落し、物価が異常な速度で上昇するハイパーインフレが発生しました。例えば、1兆マルクが1米ドルに相当するほどの極端な通貨価値の低下が起きてしまったのです。

この状況を打開するため、政府は1923年に新たな通貨「レンテンマルク」を導入し、通貨供給を制限することで信用を回復させました。この改革は短期的には成功し、ハイパーインフレを抑えることに成功しました。

ブラジル(1980~1990年代)

1980年代から1990年代にかけて、ブラジルは深刻なインフレに直面しました。財政赤字の拡大と通貨の信用低下により、物価上昇率は年率2000%を超えてしまったのです。

この危機を乗り越えるために、1994年に導入されたのが、「レアル・プラン」です。この政策では、新通貨「レアル」の導入に加え、政府の財政支出を抑制するなどの改革が実施されました。その結果、インフレ率は急速に低下し、経済は安定化しました。

アルゼンチン(現在進行中)

2024年、アルゼンチンのインフレ率は年率289.4%に達し、物価は前年比で3.9倍に跳ね上がりました。これを抑えるために政府は通貨ペソの価値を50%切り下げるとともに、大幅な財政削減を実施し、国家公務員3万5000人の削減などを進めました。

この政策により、インフレ率は鈍化の兆しを見せていますが、その一方で貧困率の悪化や国内経済の停滞はいまだ解消されていません。急激な支出削減が生活や雇用環境に与える影響は大きく、社会の安定を損なうリスクも指摘されています。