英国では、地方税として人頭税を採用していました。ですが人頭税は1993年に廃止され、現在はカウンシルタックスという独自の税制が地方税として採用されています。人頭税とカウンシルタックスはそれぞれどういった仕組みなのでしょうか。国際課税研究所首席研究員の矢内一好氏が、英国の税制について詳しく解説します。

人頭税の導入に失敗したサッチャー政権

英国はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド(以下「連合構成国」)からなる連合王国です。連合構成国には、それぞれ独自の歴史的背景があり、イングランドを除く地域には地方政府と議会が設置されています。地方行政区画は、カウンティ、ディストリクト、シティなどに細分化されています。

英国は、日本や米国のような地方税としての所得税は課されていません。香港やシンガポールも、英国の税制を踏襲しており、地方税は存在しません。

人頭税は14世紀の英国で実施されました。米国では、憲法制定時に人頭税を念頭に置いた規定が設けられ、奴隷も課税対象とされました。後に、人頭税は黒人や貧困層の投票を妨げる目的で利用されましたが、20世紀末に違憲判決が下され、廃止されました。

マーガレット・サッチャー首相(在任期間:1979年~1990年)は、1987年にスコットランドで、翌1988年4月にイングランドとウェールズで地方税として人頭税(コミュニティ・チャージ)を導入しました。この税は、一律の税額を個人に課す方式であり、税額の決定が容易である反面、低所得者層にとって負担が大きく、逆進性が問題視されました。

英国版人頭税は、単純に一律課税されるものではなく、居住する地区によって税額が異なりました。平均すると年間350ポンドの負担となりましたが、想定以上の未納者が発生し、税の徴収が困難になりました。

サッチャー首相の狙いは、労働党政権時代の放漫財政を抑制することでした。特に財政支出の多い地域では高額の人頭税を課し、地方財政の健全化を図る意図がありました。しかし、国民の強い反発を招き、1993年に人頭税は廃止されました。

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現行の英国の地方税

英国には、所得税、法人税、キャピタルゲイン税、付加価値税(VAT)などの国税があります。一方、地方税としては、日本の固定資産税に類似するカウンシルタックス(Council Tax)が課されています。地方財政の多くは、国からの交付金などに依存しています。

カウンシルタックスは、英国歳入関税庁(HMRC)の資産評価庁が評価した居住用不動産の占有者に課される税です。これは個人の所得に基づくものではなく、居住する家に対して課されます。

不動産は、所在地(カウンシル)ごとにAからHまでのバンド(評価額の区分)に分類され、バンドが高いほど税額も高くなります。また、ロンドン在住者には、これに加えてロンドン市に支払う税額が加算されます

標準税額は、成人2名が居住している場合を基準として設定されています。単身者世帯や成人1名に未成年者がいる場合は25%割引になります。

また免除対象者は、①フルタイムの学生(就業時間が週21時間で最低1年以上)、②学生看護師、③実習生、④インターン、⑤親族以外の介護するケアワーカー、⑥病院やケアセンターの入院患者、⑦外交官、⑧障害を持っている個人、です。

賃貸住宅では、物件の所有者がカウンシルタックスを支払い、借家人に請求するのが一般的です。

事業用不動産の場合は、不動産の占有者が自治体に直接支払う必要があります。いったん国庫に納められます。その後、各自治体に交付されます。

矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員