M&A後に期待したシナジーを生み出せるかどうかは、PMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)の進め方次第です。しかし、PMIがうまくいかなかった結果、経営者が「こんなはずではなかった」と嘆くケースも……。そこで、M&A後のPMIを成功に導くため必要な戦略をみていきましょう。株式会社タナベコンサルティングの丹尾渉執行役員が解説します。

企業価値を向上させるPMI(Post Merger Integration)

中長期ビジョンを実現させる経営手段として、M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)は今や無くてはならない経営手段となっている。

譲受企業のなかには複数回のM&Aを経験している企業も多いだろう。2024年1月~12月の集計期間で公開されているM&Aだけでも約4,700件あり、過去最高の件数を更新している(『マールオンライン』「2024年のM&A回顧(2024年1-12月の日本企業のM&A動向)」2025年1月6日公開参照)。

あくまでこれは公開されている件数のため、中堅・中小企業の非公開案件も含めると件数はさらに増加すると考えられる。しかし、M&Aの本質は、件数や交渉金額ではない。譲受企業(買い手)と譲渡企業(売り手)がともに成長していくモデル、すなわち「企業価値向上を目指したM&A」になっているかどうかが最も重要である。

M&Aで企業価値を向上させるプロセスはとくにPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)のフェーズにかかっている。

PMIとは、M&A後に企業同士をうまく統合し、スムーズに運営するためのプロセスのことを指す。単に企業を買収しただけでは、経営方針の違いや業務の進め方のギャップが生じ、期待した成長が実現できないことがある。そのため、PMIを適切に行い、両社が相乗効果(シナジー)を発揮できるようにすることが不可欠である。

PMIのフェーズはM&A成約後に行われるため、従来から譲受企業の視点で語られることが多い。しかし、PMIが譲受企業と譲渡企業双方の企業価値向上を目指すものである以上、譲渡企業の視点からもPMIを考えることは重要である。そこで、譲渡企業の視点からPMIに焦点を当てていく。



[図表1]M&AとPMIの比較

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譲渡企業のPMIへの関わり方

PMIは「統合プロセス」といわれるが、すでに譲受企業側はM&Aの交渉段階から動き始めている。

まず、M&Aを始める段階から譲受企業は譲受後を意識した戦略を検討しており、この部分が中途半端だと、M&A実行後に譲渡企業と意見がかみ合わない場合が多い。譲渡企業は、M&Aの初期段階から譲受企業のM&A戦略(譲受後の戦略も含む)について、面談を通じて聞き出すことが重要である。

譲渡企業の経営者(オーナー)は、自ら事業を継続し、成長させたいと考える人が多い。しかし、事業承継や経営リソースの問題でやむを得ずM&Aを選択することがある。自社のことを最もよく理解しているのは経営者本人であるため、経営者が譲受企業の今後の戦略を事前に確認し、納得できるかどうかというのは非常に大きなポイントだ。

次に、PMIの実行フェーズである。譲渡後の経営は譲受企業側が主導で行うが、PMIフェーズは譲受企業と譲渡企業双方が連携して実施しなければ成功は難しい。

とくに、譲受企業は、M&A成約段階ではデューデリジェンス(買収調査)で得た情報程度しか譲渡企業に関する情報を持ち合わせていない。譲渡企業の企業価値を向上させるためには、譲渡企業のオーナーや従業員の協力が不可欠なのである。