譲渡企業の役割とは
具体的に譲渡企業のPMIの動きにはどのようなものがあるだろうか。
まず、譲受企業の現状認識のサポートである。譲受企業は、デューデリジェンスで得た情報をもとに、強化ポイントや改善ポイントを絞り込んで譲渡企業に協力を依頼してくる。
しかし、譲受企業は譲渡企業内で実際の業務をずっと見てきたわけではないため、そこには少なからず認識のズレが発生している。
たとえば、経理処理方法や書類整備状況、営業プロセスにおいてとくに顕著にみられる。「説明では〇〇と聞いていたが、実際の営業方法は〇〇だった」という場合である。
確かに事前に聞いていた説明は間違っていないが、「思っていたものと異なる」というニュアンスとイメージのギャップが生じるのである。これは、PMIスタート時に譲受企業と譲渡企業がPMIの委員会を立ち上げて、双方で現状認識を改めて行い、一致させておく必要がある。
現状認識ができた後は、実際のPMIの動きである。
譲受企業は、戦略検討や管理部門の引継ぎ、経営者の派遣等、経営全般に関する支援を中心に進めることが多い。しかし、実際の日々の業務は譲渡企業自身が行わなければならない。
大手企業のグループに入った途端に業績が落ちる企業があるが、譲渡後は手取り足取り譲受企業が指示をくれるわけではない。譲渡企業側でも主体性をもって事業を継続していく必要がある。
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オーナー依存から「脱却」した例
譲渡企業において、営業の根幹を支えているのは、実はオーナーとキーマンと呼ばれるような人材であったりする。オーナーはM&A実施後、継続して残ってくれる場合もあれば、引継ぎ期間を経て完全に経営から退く場合もある。そうなると、これまで取れていた受注や売上が途端に上がらなくなる。
そうならないように、オーナー以外のキーマンや残った従業員で営業プロセスを組み直す必要がある。この点は譲受企業と相談しながら、譲渡企業の内部で進めていくことになる。譲受企業から新たな営業部長が派遣されてくれば良いが、そうでない場合は、譲渡企業の従業員が担う必要がある。ある企業を例に見てみよう。
実際にM&Aを実行した企業では、オーナーの引退が一定期間後に決まっていたため、ナンバー2のキーマンを中心に営業体制を見直した。オーナーに付いていたクライアントの引継ぎをPMI当初から行い、オーナー引退によるインパクトの軽減に努めた。また、営業プロセスのなかで属人的な業務になっていた箇所を洗い出し、言語化して、オーナー以外のメンバーでも携われるように整備を行った。
これにより、残った人員でこれまでの動きが継続できるようになった。もちろん、オーナーのように多くの受注や売上をすぐに上げられるわけではないが、「事業の継続(=経営をつなぐ)」という意味で、譲渡企業内部による重要な動きであった。