
団塊ジュニア世代とは、1971年から1974年代に生まれた世代を指す言葉。「第二次ベビーブーム世代」「就職氷河期世代」とも呼ばれます。約800万人の大規模な集団ですが、彼らが高齢化するころ、どのような問題に直面するのでしょうか? 本記事では、経済学者・野口悠紀雄氏の著書『終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集して、団塊ジュニア世代の雇用や出生率について解説します。
団塊ジュニア世代の非正規比率が格別高いわけではない
団塊ジュニア世代の人々は、正規の職につけず、所得も低い人が多いと言われる。本当にそうだろうか?
もしそうであれば、それは統計の数字にも表れるはずだ。そこで、統計をチェックしてみよう。
まず、労働力調査による年齢階層別の雇用形態を見よう。図表1の示した数字をみると、男性の場合、団塊ジュニア世代(45~54歳)の非正規率は、他の世代のそれよりむしろ低くなっている。

つまり、団塊ジュニア世代が他の世代より就業上で格別に恵まれない状況にあるとは認められない。
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時限爆弾を抱えているのは団塊ジュニアだけではない
つぎに、世代別の所得を見よう。図表2に示した年齢別賃金に見られる傾向は、日本の年功序列賃金体制がもたらす結果だ。

団塊ジュニア世代の人たちの所得が、他の世代のそれより格別に低いとは認められない。現時点においては、年功序列賃金の影響で、他の世代よりむしろ高くなっている。
団塊ジュニア世代についてもう一つ言われるのは、「正規の職を得られなかったために結婚できない人が多かった。その結果、この世代の子供の数が少なくなった。このため、彼らが高齢化したときに、彼らを支える若年層人口が少なくなる」ということだ。
これが正しいかどうかを確かめるために出生率の推移を見ると、顕著な変化は、1980年代に生じた。1990年、95年、2005年の出生率は他の年より低くなっているが、それほど大きな差ではない。
出生率の低下による人口構造の変化は、将来の日本社会に大きな問題をもたらす。しかし、それは、団塊ジュニア世代に限定された問題ではないのである。
以上のように、団塊ジュニア世代で格別に非正規職員が多いとか、所得が低いとか、あるいは出生率が格別に低下したというような現象は見られない。少なくとも、統計の数字に表れるほど大きなものにはなっていない。
この世代の人々が「就職氷河期」の犠牲になったことは、間違いない。しかし、その影響は、統計の数字に表れるほどの大きさにはなっていないのだ。
ただし、以上で述べたことは、団塊ジュニア世代の人々が高齢化する2040年頃に、日本が大きな困難に直面することを否定するものではない。それは、人口構造の問題として将来に起こることであり、また、日本経済が長期的に衰退してきた結果として起こることだ。
非正規が多く、賃金が上がらないので、老後への蓄えが十分でない。負担者が少なくなるので社会保障制度を維持できなくなる。
日本社会は、このような時限爆弾を抱えている。時限爆弾を抱えているのは、団塊ジュニアだけではないのだ。
野口悠紀雄
経済学者
一橋大学名誉教授