オレオレ詐欺「騙しのフロー」を解読せよ!鞄、不倫、仮想通貨…巧妙化する劇場型詐欺の手口とは

オレオレが猛威を振るってからもう10年以上になるだろう。それでもいまだ類似の詐欺事件が報道されている。無知という側面もあるだろうが、それだけ騙す側が巧妙ということでもある。

「騙しの流れを覚えておけば、詐欺だとすばやく気が付くポイントが生まれる」。騙されないための心得として、こう指南するのは詐欺に詳しいルポライターの多田文明氏だ。

「○○詐欺」といった詐欺のパッケージでなく、その中身を知ることが予防につながる。実例を交え、多田氏が騙しのカラクリに翻弄されないための要点を解説する。

※ この記事は悪質商法コラムニスト・多田文明氏の書籍『最新の手口から紐解く 詐欺師の「罠」の見抜き方 悪党に騙されない40の心得』(CLAP)より一部抜粋・再構成しています。

同じような詐欺でも微妙に変化している

オレオレ詐欺の被害は相変わらず多い。これだけ手口への周知徹底が図られているにも関わらずだ。

日本の社会で「オレオレ詐欺」この言葉を知らない人はいないはずだ。にもかかわらず、被害が多く出ている。その理由として、パッケージの中身が変わっているのに、それに気付いていないことがある。

私はこれまで詐欺師たちのさまざまな手口を通じて、ビジネスの成功にも通じる交渉術、マーケティングなどの手法を書いてきた。実は、このオレオレ詐欺にも、あるビジネス的な発想が見え隠れしている。

世の中には、アイスやパン・お菓子など、長年売れ続けているヒット商品がある。これらの商品の多くは、まったく同じ味のものを、長期にわたって漫然と販売し続けているわけではない。その時々の消費者の嗜好に合わせ、味を少しづつ変えながら、商品を提供している。それゆえに、ロングセラーとしていまなお売れ続けているのだ。

実は、オレオレ詐欺も同じなのである。

息子を装って騙しの電話をかけ、心配する親心に付け込んで金を騙し取る。この大枠の手法は変わらないものの、話す内容は、その時の状況によって変えてきている。

主流となった「落し物詐欺」

たとえば、以前から多いものに、「落し物をした」と言って騙す手口がある。

「オレだけど」と、息子を装った男から高齢女性のもとに電話がかかってくる。息子だと思い込んだ女性が、「○○かい。なんだい」と息子の名を呼んで尋ねると、「そうだよ」と答える。

そして、「実は電車に、携帯電話を入れたままで鞄を置き忘れてしまったんだ。今、会社の人の携帯を借りて、電話からかけている。もしも駅の落し者係から電話がきたら、実家の番号を教えておいたから、話を聞いておいてね」。そういって、一端電話は切れる。

まもなくして、駅の遺失物センターの職員を騙り、女性宅に電話がかかる。

「○○さんのご実家でしょうか。息子さんのカバンがみつかりました」

ほどなくして、再び、息子から深刻な声で電話がかかってくる。鞄が見つかったことを母親は伝えるも、息子は深刻な声で答える。

「実は、鞄の中には、会社の小切手が入っていて、それをなくしたことで、会社で大変なトラブルになっていて……、ちょっと上司に変わるよ」

すると、息子の上司を名乗る人物が出て、「実は、息子さんがなくした小切手は、今日中に取引先へ渡さなければならないものです」という。

もはや、鞄を取りに行っても間に合わないことを告げた上で、「小切手は紛失とともに凍結したのですが、その分の代金を今日中に工面しなければなりません……そのお金の一部を、お母さまに立て替えていただけないでしょうか。もしこの件が会社に知られたら、息子さんは会社をクビになるかもしれません。お金は後で必ず返しますので、お願いできないでしょうか」と続ける。

上司役の男は、現金をどのくらい用意できるかを尋ねて、もし手元に現金がないようであれば、母親を銀行に行かせ、お金をおろすよう仕向ける。

この「鞄をなくした」「落とし物をした」という手口はオレオレ詐欺の中でも主流なものだ。それでも、80代女性が長男を装った男に、8000万円を超える金額を騙しとられた事件があった。

時事問題を絡めながら話を展開させてくる

また、70代女性が長男を装った男に 2750万円を騙しとられた事件では、電車ではなく「病院のトイレで鞄を置き忘れた」という内容だった。

ちなみに、100万円の被害に遭った70代女性のもとには、まず医師を装った男から、「息子さんがポリープの破裂で吐血して病院に運ばれてきました。検査が必要です」と電話がかかり、心配させたところに息子役が、「病院でバッグを盗まれて、銀行口座のカードを盗られた。今日中に、お金を払わないといけない」と、さらなる緊急事態を作り上げて、金を騙し取っている。

このように、「鞄」をキーワードにしただけでも、さまざまなストーリーが存在する。

他にも、「会社の金を使いこんだので、穴埋めをしなければならない。このままでは逮捕される」「痴漢をしたので、警察に捕まっている」という罪を犯した系のものもある。

不倫を題材にするケースでは、「息子さんが職場の女性を妊娠させたので中絶費用が必要だ」という弁護士からの電話も交えて、金を騙し取る。

また、「仮想通貨の投資で失敗したので、お金が必要」「仮想通貨の税金を払わないと口座が凍結される」という、時事問題を絡めながら話を展開してくることもある。

オレオレ詐欺では、複数人を装って電話をかける劇場型の手口ゆえに、いろいろなパターンの話を展開できるのだ。にも関わらず「オレオレ詐欺に気をつけて」という、簡単な標語や言葉の注意喚起の繰り返しだけでは、もはやこの種の詐欺は防ぎきれないといってよいだろう。

騙しのプロセスを示すフローチャート

私たちはオレオレ詐欺というパッケージの外見ではなく、話の中身をより知って身を守る必要がある。

とはいっても、次々に現れる詐欺話のストーリーをすべて覚えるのは、高齢者でなくても難しいだろう。

そこで、私は、騙しのプロセスを矢印で示すフローチャートで、詐欺の手口を知り、身を守ることを勧めたい。

オレオレ詐欺は、「息子を騙る」ところからスタートする。次に展開する騙しのキーワードにはいくつかある。

たとえば、


犯罪行為
不倫

などがある。

鞄を見てみよう。この場合は、「落とす」「なくす」といってくる。その時の場所は、電車や病院、タクシーなどだ。

そして、鞄には、小切手やカードなどが入っており、それがなくてトラブルに陥る。結論は、「すぐに手元に現金が必要だ」となる。

「不倫をした」でも「子供ができてしまって」「相手の旦那にばれた」となり、〝子供ができた〟のケースでは、「中絶費用が必要」となり、〝旦那にばれた〟では、「示談金が必要」が結論となる。

犯罪系では、「会社のお金を使い込んだ」「電車内で痴漢をした」といった理由で、弁護士が出てきて、金を請求するといった具合だ。

このフローでみれば、キーワードが仮想通貨という形になっても、「投資で失敗した」「税金がないと、口座を凍結される」などの方向に話が展開し、金を要求する構図がみえてくる。

すべての手口ですべてを覚えられなくても、フローチャートにして、騙しの流れを覚えておけば、詐欺だとすばやく気が付くポイントが生まれるはずなのだ。

最近では、台本の「息子(オレオレ)」自体を変化させるケースもある。娘を騙った「わたしだけど」という詐欺や、名簿で知った甥や孫を騙って電話をかけるなどのケースも多い。

ただし、オレオレ詐欺の騙しのフローは変わらないので、息子の部分を娘や孫に変えればいいだけのことである。

ダマされないために重要なことは、今、受けている話が「嘘かどうか」を見抜く目だ。

私はこれまでさまざまな詐欺や悪質商法の現場に潜入取材してきたが、話の流れ着く先がどこなのかを先読みすることで、相手の話の嘘を暴いたり、ダマされそうな局面を逃れてきたことも多い。

どうしても、私たちは親の情につけこんで金を搾取するという「オレオレ詐欺」のパッケージばかりに目を向けてしまいがちが、そうではなく騙しのストーリー自体をフローで知り、先読みができる力を養うことこそが、被害に遭わないためには必要なのだ。