このままだと、年金受給開始を待たず「老後破産」に
Aさんからこれまでの生活といまの悩みについて聞いた筆者は、まずA家の今後の主な収入について書き出してもらうことにしました。
<A夫妻の今後の収入>
・59歳……給与年収1,100万円
・60歳……退職金1,500万円(退職金)+企業年金月6万5,000円(~75歳まで)
・65~69歳……Aさんの老齢厚生年金月22万6,300円+企業年金=月29万1,300円
・70~74歳……夫婦の老齢厚生年金月27万2,900円+企業年金=月33万7,900円
・75歳以降……夫婦の老齢厚生年金月27万2,900円
定年後は働かない方針だというAさん。そうなると定年後、65歳の年金受給開始までは退職金1,500万円と企業年金(60歳から15年間月6万5,000円支給)、それに貯蓄200万円で生活することになります。
また、これまで厚生年金保険料や健康保険料、住民税は給与から天引きされて「所得税」も源泉徴収されていました。しかし退職後は、夫婦の国民健康保険料やBさんの国民年金保険料といった非消費支出(税金や社会保険料)も、自身で納めなくてはなりません。
A家の現在の支出額は月80万円ほどで、老後も現在の生活水準をできる限りキープしたいといいます。しかし、この80万円に国民健康保険料やBさんの国民年金保険料といった非消費支出(税金や社会保険料)を足すと、退職の翌年は年間約200万円、その後は年間45万円程度の納付が必要です。
A家はシミュレーションをするまでもなく、Aさんの65歳の年金受給を待たずに破産の危機にありました。
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「プライド」と「理想の生活」で身動きの取れないAさん
こうしたなか、Aさんは夫婦の生活費のほか、息子の結婚費用や自宅をバリアフリー化するリフォーム費用、現在80代後半の両親の介護費などを心配していました。
まず両親の介護費用については、両親が自分たちであらかじめ準備している可能性もあります。したがって、両親と率直に話し合ったうえで、介護保険等を活用しつつ不足分があれば対応すれば良いでしょう。
また、Aさんは自宅を購入後、数年に1度は工務店に言われるがまま、100万円単位で修繕工事費用を支払っていました。バリアフリー化でリフォームが必要になった場合には、いまの工務店以外にも複数見積もりを取ることも検討すべきです。
A家の最優先事項
「バブル時代の感覚が抜けず、欲しいものはすぐに手に入れるというのが習慣になっていたんです。まとまったお金を一気に使うのも快感で……」
Aさんはこう言うものの、現実問題として収入を得なければ、A家の今後の家計は成り立ちません。Aさんが現在勤める会社では、希望すれば60歳の定年後も再雇用で働くことが可能です。
「部下の下で働くのはプライドが許さない」と頑固なAさんですが、詳しく話を聞くとこれまでのAさんの業績や勤務態度から、D社以外にも再雇用の誘いは数社あるそうです。
しかし「どの会社の給与条件もいまより半分以下だし、ボーナスもない。いまひとつ乗り気になれなくて……」とのこと。しかしAさんの現状では、そんな悠長なことを言っている場合ではありません。
また、生活費に関しては、極端に節約してもすぐにリバウンドすることは目に見えていますから、 “衝動買い”を控え、ムダな固定費を見直すことで、なんとか月80万円から月50万円に抑えます。
さらに、これから20年かけて毎月1,000円ずつ節約していけば、80歳からは月30万円での生活も可能になる計算です。
根気強く説得したところ、妻Bさんの後押しもありAさんは筆者の提案を受け入れてくれました。
その後しばらくしてAさんの再就職先も決まり、またBさんも「自宅でひとりじっとしていても退屈だ」とパート勤務を開始。数年後の破産はなんとか免れそうです。