う、嘘だ…2024年8月の「悲劇」

2024年7月、日経平均株価が4万2,000円を突破し、陽介さんの資産はおよそ800万円の含み益に。スマートフォンで評価損益を眺めては笑みがこぼれていた陽介さんですが、その幸せは長くは続きませんでした。

4万2,000円を超えたあと、相場に調整が入り、市場は徐々に冷え込んでいきます。4万円付近まで下落しましたが、陽介さんは「一時的な調整だろう。すぐに戻るさ」と楽観的に捉えていました。

しかし、事態は陽介さんの予想をはるかに超えるスピードで悪化していきます。

――2024年8月1日。日経平均株価はたった1日で、3万9,000円から3万8,000円まで、1,000円もの急落を見せました。

(なんだ……?)

陽介さんは嫌な予感がしました。そして翌日、日経平均株価は3万6,000円まで急落。わずか2日間で、これまで積み上げた利益が吹っ飛んでしまったのです。

証券口座の画面を開くと、含み益はほとんどゼロになっていました。陽介さんは、頭が真っ白になります。

(……いや、まだなんとかなるはずだ……)

自分に言い聞かせるように、画面をじっと見つめる陽介さん。しかし、相場は無情にもさらに下落していきます。

8月5日、日経平均株価はさらに3万5,000円から3万1,000円付近まで、たった1日で4,000円もの大暴落。過去最高幅の下落を記録しました。

恐る恐る証券口座にログインして残高を確認すると、衝撃の数字が書かれています。

もう、ダメだ…

評価額300万円!? 俺の大事な1,000万円は……?

目の前の数字が現実のものとは思えませんでした。震える手でスマートフォンを持ち、何度も画面を更新しましたが、数字が変わることはありません。かつての株式投資での失敗がフラッシュバックします。

(もう、ダメだ)

耐えられなくなった陽介さんは、持っている商品をすべて決済。半年で積み上げた資産は、一瞬で無に帰したのです。

わずか半年で、天国と地獄の両方を味わった陽介さん。資産の半分を失い、陽介さんはしばらく呆然と、真っ暗なスマートフォンの画面をただ見つめるしかありませんでした。

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“多額の評価益”は人から冷静な思考を奪う

陽介さんは先物取引によって最終的に1,000万円もの資産を失いました。これは決して珍しいケースではなく、特に投資経験の浅い人がリスクの高い商品に手を出した場合に起こりやすい失敗です。

本事例の最大の問題点は、十分な知識を持たないままリスクのある運用方法を選択してしまったことでしょう。

陽介さんは

・日経225先物に集中投資

・1,000万円超の資金を一括投資

と、いずれもリスク管理の面で問題があります。投資の原則は、「長期・分散・積立」です。

金融庁の公表した資料によると、毎月一定額を国内外の株式や債券に積立投資して20年間以上運用した場合、1989年以降のデータでは元本割れがなかったと報告されています。

つまり、長期にわたって資産運用すれば、短期的な市場の変動に影響されにくく、安定した収益を期待できるのです。

さらに、陽介さんが選んだ「先物取引」は特にリスクの高い投資商品です。

先物取引とは、決められた期日に事前に決めた価格と数量で商品の売買を行う取引のこと。先物取引には、「商品先物」と「金融先物」の2種類があります。

「商品先物」は、原油、トウモロコシ、大豆、金、白金、電力など、実際の商品を対象とした取引のことで、一方の「金融先物」は、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)、債券など、金融商品を対象とした取引のことをいいます。陽介さんが行っていたのは、この金融先物取引(日経225先物)です。

先物取引の最大の特徴は、「レバレッジ(証拠金取引)」を利用できる点です。