人生100年時代、より楽しく長く働いていくためには、「ライフシフト」する必要があります。本記事では、ライフシフト研究者の河野純子氏の著書『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集して、60代からのライフシフトについて解説します。

「雇われる働き方」から「雇われない働き方」へ

60歳からのほうが楽しく働ける理由の1つは、「雇われる働き方」を卒業するからです。

世の中には「雇われる働き方」と「雇われない働き方」の2つしかありません。会社員はもちろん「雇われる働き方」。そして雇われている限り、指示は雇用主から出され、その最たるものが「定年」です。自分の意思とはかかわりなく、終わりが決められているのです。

したがってできるだけ長く働いていくために、どこかのタイミングで「雇われる働き方」を卒業して、「雇われない働き方」にシフトする必要があります。

「雇われない働き方」とは、自営業やフリーランス、小さな会社の経営者などのイメージです。自分が雇い主ですから、いつまで働くかは自分で決められます。働き方も自由です。会社のさまざまなしがらみから逃れ、自分の裁量で、自分らしいペースで働くことができるわけです。

データをみても60歳以降は「雇われない働き方」をしている人の比率が増えていきます。50代後半の働く女性のうち、正社員やアルバイトなどの「雇われる働き方」(会社経営者、役員を除く)の比率は89.2%(総務省統計局「就業構造基本調査」2022年)ですが、60代後半で78%、70代後半で54.1%、85歳以上になると24.6%まで減ります。

一方で自営業者は50代後半の4.5% から60代後半で7.6%、70代後半で18.6%と増え、85歳以上で働いている人の32.3%は自営業者です。自営業者を手伝う家族従業員(23%)も加えると、55.3%が「雇われない働き方」をしているのです。

年齢とともに働いている人の数は減っていくので、絶対数は多くはないですが、長く働くには自営業が有望であることがわかると思います。

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ライフシフトによって「自分が主人公」の人生を歩む

私はこれまで50代で会社員を卒業して起業した人に注目をしてそのプロセスを研究し続けてきました。起業というと少しハードルの高さを感じますが、ここでいう起業とは「自分で事業を始めること」。主に自営業者やフリーランス、小さな会社の経営者が研究対象です。

50代会社員が起業という選択をするきっかけは、大きく2つあります。

1つは50歳という年齢。定年まであと10年という節目にたって「このままでいいのか」と考え始める、あるいは人生100年時代を自分事としてとらえ折り返し地点にいることを実感するというケースです。定年後も続く長い人生を考えれば、気力も体力もあるうちに「定年のない働き方」にシフトしたほうがいいと考え起業を選ぶのです。

もう1つは会社への不信感や違和感。不本意な異動や昇進の壁、役職定年などをきっかけに、会社の都合に振り回される人生に疑問を抱き、会社のためではなく自分のための人生を生きたいという思いが起業につながっていくケースです。

ライフシフトとは、自分がこれからの人生で大切にしたい価値軸にそって人生をシフトすること。その結果、自分が主人公の人生を歩むことです。

50代会社員の起業は、会社中心の人生から自分が主人公の人生へのシフトであり、まさにライフシフトそのもの。実際に起業を実現するまでのプロセスには紆余曲折あるものの、強く印象に残るのは皆さんが語ってくれる「雇われない働き方」の魅力です。

「会社員時代には感じることが難しかった働く喜びを実感しています」「すべてを自分で決めて働けることで自分の人生を生きているという実感があります」、そして「70代、80代、90代とこれからも働き続ける自信が持てました」。

こんな言葉を聞いていると、「雇われない働き方」は単に長く働く手段ではなく、自分らしく生きるための手段でもあり、人生100年時代に、挑戦すべき働き方なのだということを確信するのです。

河野 純子

ライフシフト・ジャパン取締役CMO

ライフシフト研究者