
厚労相が「特定最低賃金」の導入検討を明言
深刻化する介護業界の人手不足に対し、政府が新たな対応を検討しています。福岡資麿厚生労働大臣は3月21日の会見で、介護職への特定最低賃金導入について「活用の検討を進めたい」と言及しました。
従来の処遇改善加算だけでは業界全体の賃金底上げに限界があると指摘されており、制度の新たな選択肢として注目が集まっています。
参考:厚生労働省|福岡大臣会見概要(令和7年3月21日(金)8:33~8:36 院内大臣室前)
特定最低賃金とは
特定最低賃金とは、特定の産業を対象に設定される最低賃金のことです。労働者と事業主の合意(労使合意)に基づき、都道府県ごとに定められた地域別最低賃金よりも高い水準で設定されます。2025年3月現在、全国で224件が適用されています。主な適用例としては、以下のような地域と業種があります。
主な適用例としては、以下のような地域と業種があります。
都道府県 |
業種 |
特定最低賃金 |
地域別最低賃金 |
金額差 |
---|---|---|---|---|
北海道 |
乳製品製造業 |
1,048円 |
1,010円 |
38円 |
広島 |
船舶製造 |
1,080円 |
1,020円 |
60円 |
愛媛 |
紙製造業 |
1,050円 |
956円 |
94円 |
引用:厚生労働省|令和6年度 特定最低賃金の審議・決定状況
特定最低賃金と地域別最低賃金の違い
特定最低賃金 |
地域別最低賃金 |
|
---|---|---|
対象 |
特定の産業の労働者 |
全労働者 |
設定の単位 |
都道府県・業種ごと |
都道府県ごと |
設定の頻度 |
任意 |
毎年 |
法的効力 |
設定後はあり |
あり |
現在の状況 |
一部業種では地域別より低くなり実質失効状態 |
全国で毎年上昇傾向 |
特定最低賃金は地域別最低賃金と異なり、導入そのものは任意です。すべての地域・産業で設定が義務付けられているわけではありません。ただし、一度設定されると、労働基準法に基づく最低賃金としての効力を持ちます。
tips|特定最低賃金と地域別最低賃金が逆転することも
特定最低賃金は、地域別最低賃金よりも高い賃金水準を、労使の合意をもとに地域の産業単位で設定する制度です。ただし、労使の申し出を受けて都道府県労働局の審議会で決定される仕組みであり、定期的に見直されるものではありません。
一方で、地域別最低賃金はすべての都道府県で毎年必ず見直しがおこなわれる制度で、近年大幅な引き上げが相次いでいます。
このため、かつては特定最低賃金のほうが高かった業種でも、地域別最低賃金の上昇により金額が逆転してしまうケースが生じています。結果として、特定最低賃金が実質的に適用されない状態となっている産業もあるのが現状です。
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介護職への導入が検討される背景
加算制度による処遇改善には限界も
2024年に厚生労働省が公表した「介護従事者処遇状況等調査(速報)」によると、介護職員の基本給は前年比4.6%増加し、25万3,810円となりました。手当や賞与を含めた平均月給も33万8,200円(前年比4.3%増)となっており、処遇改善は進んでいることがうかがえます。これらの改善は、報酬改定や介護職員等処遇改善加算などの制度による影響と考えられます。
>介護職の給与の動向についてはこちらの記事をご確認ください
介護職の給与が4%以上増加!2024年度は処遇改善加算で基本給25.3万円・月給33.8万円に
ただし、調査の対象は加算を取得している事業所に限られており、制度を活用していない事業所は調査対象外となっていることから、全体の底上げとは言い難い状況です。
また、他産業との賃金格差も拡大しています。厚生労働省が公表した「賃金構造基本統計調査」によれば、2023年の全産業平均賃金と介護職員の平均賃金の差は月8.3万円に達しており、前年(6.9万円)からさらに開いています。これは、他産業で賃上げが進む一方、介護分野の処遇改善が相対的に追いついていない現状を示しています。
加算制度に残された課題
処遇改善に関する加算制度は複数存在していましたが、加算の仕組みが複雑で、手続きの煩雑さや分配の不公平感などが課題となっていたことから、2024年度の介護報酬改定で一本化されました。とはいえ、制度上の課題は依然として残されています。
加算の分配方針が各事業所に委ねられており、職種や雇用形態によって賃上げにばらつきがある加算取得には複雑な算定要件や書類手続きが必要で、小規模事業者ほど負担が大きい報酬改定のたびに見直される可能性があるため、継続性や安定性に不安がある
こうした点から、処遇改善加算だけでは構造的な賃金の底上げにはつながりにくいという声もあり、特定最低賃金の導入は次の一手として注目されています。