ゼロ成長ケースでは、老後のための要貯蓄額が5,000万円を超える!
しかも、これが最悪ケースであるわけではない。ケース④(ゼロ成長ケース)の場合には、国民年金の積立金が2059年度に枯渇し、それ以降は賦課方式に移行するため、厚生年金の所得代替率が、2060年度に36.7%に低下するのだ。
36.7%とは、2024年度の6割の水準だから、現状からの減少額は、モデル年金で言えば、月額9.2万円、年額111万円となり、30年間では3,319万円となる。したがって、これまで「2,000万円必要」と言われていた老後生活のための要貯蓄額は、5,000万円を超えてしまう! これでは、ほとんどの家計がお手上げだろう。
話はこれで終わりではない。ケース④よりさらに悪いケースも、考えられなくはない。円安のために日本は外国人労働者を惹きつける魅力を失っている。だから、外国人労働力が増えることを前提にした現在の財政検証は現実的でなくなっていると考えることもできる。
(広告の後にも続きます)
いますぐにも議論を始める必要
政府が公的年金制度について何らかの措置を取らなければならないのは、次の財政検証までの間に所得代替率が50%を切る事態になった場合だ。
だから、今回の財政検証によれば、どのケースであっても、いま直ちに政府が何らかの措置を取る必要はない。措置を取るのは、ずっと後のことであってもよい。
しかし、問題を放置すれば、取るべき措置は大きなものとなる。例えば、支給開始年齢の引上げには、長期間を要する。仮に65歳から70歳に引上げるとした場合、ある時点で一気に5年引上げるわけにはいかない。最低限、2年間で1年引上げるのが限度だ。
したがって、5年引上げるには、10年間が必要だ。だから、いますぐにでも議論を始め、準備を開始しなければならない。
野口悠紀雄
経済学者
一橋大学名誉教授