10ヵ月の航海を終えたマグロ漁船員、帰還前の“ご褒美”
やっと10ヵ月の操業を終え、帰還することになりました。
燃料補給のためにハワイへ入港し、1泊してから帰還します。ハワイに着くと、10ヵ月前に立ち寄ったクラブの可愛い女の子が迎えに来ていました。
「アナタ、おかえりなさい。待ってたよ」
「おっ、おう!」
びっくりしました。この船だとよくわかったなあ、と思いましたが、所詮はハワイの売春組織なわけで、いつどの船がハワイに入るなんてことは裏ですべて把握しているのでしょう。
この女の子の「おかえりなさい」という言葉が、なんだか甘酸っぱい感じで、少しだけときめいたのを覚えています。ハワイの売春組織の女性にときめいた瞬間でした。
このとき冷凍長が来て、久しぶりに笑顔で話しかけてくれました。
「やっぱ可愛いな。せーがうらやましいや」
「何言ってんすか、冷凍長」
冷凍長と楽しい会話をしたのは久しぶりです。なんだかんだお世話になったので冷凍長には感謝しています。
その後、女の子に連れられて、また辛いものだらけの店で焼肉を食べて観光し、1泊して船に戻りました。トシもまたペルー人の女の子とどこかへ行ったみたいで、楽しそうな顔をして翌日船に戻ってきました。
トシと2人で免税店に行って、いろいろと買い漁りました。まず葉巻を買って、オヤジにはブランデー、お袋にはシャネルの19番などの香水をおみやげに買い、爆買いをしてハワイを後にしました。
第8亀清丸での給料は、支給合計363万922円。
前渡金185万9040円、
控除合計289万737円、
差引支給額74万185円。
トシは帰還後すぐ、新車のレパードを購入しました。現金一括でしょうね。うらやましいと同時に、ちょっと落ち込みました。借金を背負っている私に、そんな贅沢をする余裕はありません。
それでも、私の稼いだお金で家族が食えていたなら良しと、あまり深くは考えませんでした。
社長のおんちゃんがオヤジに話していたそうで、オヤジはニコニコしながら教えてくれました。
「せーに預けて本当によかった、ありがとうと伝えてけらい(伝えてくれ)。そう言ってたぞ」
「よかった……」
本当によかった。遠洋マグロ漁船は仕事としてかなり高度で、近海マグロ漁船では体験できない仕事内容ばかりです。高いスキルが要求されるので、トシにとって幹部を目指してのし上がっていくには最高の環境だったと思います。私も鼻が高いです。
菊地 誠壱
元マグロ漁船員/Youtuber