アジアのCEO3,500人全員が共通して抱える「一つの課題」
柴田
マレーシアをはじめとする東南アジア全体の教育が今後直面する課題についてどのようにお考えですか。また、マレーシアのエプソムカレッジでは、そのような課題や問題をどのように克服し、改善しようとしているのか、お聞きしたいと思います。
ランカスター
とてもいい質問ですね。2023年、『エコノミスト』の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニットとグーグルがあるレポートを作成しました。それは、アジア太平洋地域全体の多国籍企業や中規模から大規模企業のCEO3,500人にインタビューを行ったもので、CEOが自社を成長させ、今後も健全な状態を維持するうえで直面する課題に焦点が当てられていました。
回答者全員が挙げた最大の課題は、明日のリーダー、つまり最終的に自分たちの後を継ぐ人材を見つけることでした。ソフトスキルを持つ人材を見つけることに関して深刻な問題があることがわかったのです。
彼らはこういっていました。
「私たちは、最高の大学出身の学生を見つけて採用することはできるが、彼らにはグローバルな考え方、特にリーダーシップや社交性といったソフトスキルが欠けている」
柴田さんも私も企業に入社すれば、誰しも社内外の人々と適切にコミュニケーションをとり、彼らと関係を築き、指導し、動機づけ、導くなどのソフトスキルが極めて重要であることを知っています。これらは、多くのCEOが問題視している点です。
マレーシアには、「カザナ・ナショナル」という政府系ファンドがあります。この組織の一部門は教育助成金の提供に携わっており、大学進学前の奨学金(通常はAレベル、IBDPの場合もあり)と大学教育のための奨学金を提供しています。この組織は奨学金を出す大学のリストをかなり厳しく設定しており、マレーシア全土で最も優秀な少年少女に奨学金を支給しています。大学を通じて資金を提供し、その後、政府または政府系企業で働くように促します。
カザナ・ナショナルは政府系ファンドとして国家建設に関与しているという考えです。最高の機関から選ばれた最も優秀な人材を国家を率いるリーダーとして確保するために、長期的な投資決定を行っているのです。
彼らとミーティングした際に、彼らも同じ問題に直面していることが明らかになりました。マレーシアの最も優秀な若い男女のなかには、トップクラスのAレベル校に通うための奨学金を得ている人もいます。彼らは最高の成績を収め、特にイギリスやアメリカなど世界のトップクラスの大学からオファーを受けています。
しかし、学校では社交したりするといったソフトスキルを十分に学ぶことができていません。つまり、非常に知的な考えを持つマレーシア人が集まっているだけで、基本的なソフトスキルが欠けているという状況でした。留学先の大学で、彼らはマレーシア人としか交流せず、日本人やイギリス人などとは交流していませんでした。そして学位を取得したあと、彼らは帰国して労働力に加わりました。
しかし、彼らは明日の国を背負うリーダーとはいえません。そこでカザナ・ナショナルは私たちにアドバイスと助けを求めてきたのです。
彼らは、私たちが子どもたちに毎日行っていること、彼らが絶対的な自信を持てるようにするにはどうすればよいかを知りたかったのです。私たちの生徒たちは、たくさんの大人と同じ部屋に入れられ、大人と世界中の物事について会話したり、とても面白い方法で関わったり、独自の視点を持っています。これらすべてのスキルはとても重要です。特にカザナ・ナショナルにとっては絶対に不可欠です。
そして、これはマレーシアだけの問題ではなく、他の東南アジア諸国でも同じです。私たちは生徒たちに、勉強、暗記、授業に時間を費やし、夜11時まで授業を受けるというだけの理解から抜け出すよう、変える必要があります。なぜなら、これでは明日の未来のリーダーが育たず、人々が最高の自分になれるようにはならないからです。
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貧富差関係なく、寮生たちは対等
柴田
21世紀と明日のリーダーにとって、対人スキル、ソフトスキル、多様性を受け入れて配慮することが非常に重要な要素であることに同意します。
次の質問ですが、エプソムカレッジが地域社会、そしてマレーシアという国全体に貢献するために、どのようなことを奨励しているのですか? また、マレーシアにおける学校と社会との関係をどのように評価しますか?
ランカスター
多くの学校が地域社会と協力していると主張する一方で、さらなる改善の余地があることは事実です。
私たちは寄宿学校として、空港から車で15分、クアラルンプール市内から車で1時間ほどの距離に位置しています。この地域は非常に小さく、私たちのキャンパスはそのなかで最も重要な開発プロジェクトの一つです。
具体的には、経済的・社会的に地域に大きな影響を与え、地域発展における中心的な役割を果たしています。キャンパスは自然に囲まれた美しい環境にありますが、クアラルンプールの都市開発からは遠く離れています。多くのスタッフがこの地域社会に積極的に関与しており、一部のスタッフは地元から採用されています。
もちろん、クアラルンプールからも優秀なマネージャーや専門家を採用できますが、毎日車で1時間以上の通勤は現実的ではありません。したがって、私たちがこの地域の一部として機能し、地域社会と緊密に連携することが非常に重要です。
マレーシア最大の政府系企業ペトロナスのCEOが、2人の娘を私たちの学校に通わせています。彼は非常に高い報酬を得ている重要な人物であり、娘たちは非常に恵まれた生活を送っています。
しかし、彼女たちは、全額奨学金を受けている当校の生徒と一体になっているのです。彼らは、B‐40セグメント(国内最下層40%、月収2,500米ドル未満)の家庭出身の聡明な少年少女たちです。彼らは奨学金を受けていますが、生徒間で差別意識はありません。全員が自分の出身地を知っており、ただの親友です。経歴や出身地で差別されることはありません。
自分たちは対等であること。これが私たちが学校に植えつけたい価値観です。人間の感情、道徳的性格、善悪の判断、偏見を持たず、親切で友好的であることに関するものです。これらは私たちにとって重要なことであり、すべての教師と寄宿舎教師の監督の下で非常にうまく統合されています。
柴田
本日はお時間をいただき、本当にありがとうございました。
柴田 巌
株式会社Aoba-BBT
代表取締役社長