
北欧5ヵ国で採用されている二元的所得税は、日本の包括的所得税とは異なり、勤労所得と資本所得を区分し、それぞれに異なる税率を適用する税制です。実は、日本でも二元的所得税の導入が検討されたことがあります。しかし、なぜ導入には至らなかったのでしょうか。
北欧5ヵ国の概要
アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドから構成される北欧5ヵ国(以下「5ヵ国」)は、EU加盟(アイスランド・ノルウェーは非加盟)や通貨制度などに違いはありますが、強い連携を維持しています。
5ヵ国の政策が類似している背景には、以下のような要因があります。5ヵ国は歴史的にデンマークから分離独立した経緯を持ちます。経済的に豊かで、1人当たりのGDPは世界ランキングで日本より上位に位置しています。政治的には右派と左派の対立や労働争議が少なく、中道派の政党が政権を担い、福祉制度を拡充してきました。
5ヵ国は「二元的所得税」を採用しており、勤労所得には累進税率、資本所得には比例税率を適用しています。
一方、日本はすべての所得を合算して累進税率を適用する包括的所得税を採用しています。
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日本で「二元的所得税」が検討された理由
1990年、日本のバブル経済は最高株価を記録しましたが、その後、不良債権問題の処理や株式持ち合いの解消が進みました。バブル期には、上場企業や保険会社が市場全体の50%以上の株式を保有していましたが、2013年の第二次安倍内閣時点では16%まで低下しました。
小泉内閣(2001〜2006年)は「聖域なき構造改革」を掲げ、経済財政諮問会議で決議された政策の基本方針を「骨太の方針」としてまとめました。そのなかで、以下のような税制改革が検討されました。
・貯蓄優遇(預貯金中心)から投資優遇(株式投資の促進)への転換
・起業・創業の促進を目的とした税制改革の検討
この方針のもと、政府税制調査会は小泉首相の指示により、2003年に「少子・高齢社会における税制のあり方」(中期答申)をまとめました。同調査会で、金融・証券税制についても議論されました。
さらに、税制調査会金融小委員会は2004年に「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」(小委員会答申)を作成。この答申を受け、二元的所得税に関する論議が活発化しました。
しかし、結果的に日本では二元的所得税の導入には至りませんでした。日本では現在も金融所得に源泉徴収課税を適用しており、部分的には二元的所得税に近い仕組みとなっていますが、完全な移行は実現していません。