5ヵ国における「二元的所得税」の意義

スウェーデンの租税政策に関する研究書、馬場義久『スウェーデンの租税政策-高福祉国家を支える仕組み』(早稲田大学出版部、2021年)によりますと、二元的所得税の導入により、租税回避の可能性が低減された点がメリットとされています。

また、資本所得の税負担を軽減する一方で、富裕税(補完課税)を課すという見方もあります。包括的所得税で資本所得を高税率で課税するよりも、30%の分離課税の方が富裕層にとって有利になりやすいため、その軽減分を補う目的で富裕税が導入されたという説です。

しかし、現在も富裕税を存続しているのはノルウェーのみで、他の4ヵ国は富裕税を廃止しています。スウェーデンで富裕税が廃止された主な理由は以下のとおりです。

・富裕層の国外逃避(高税率を嫌い、海外へ移住する傾向)

・徴税コストの高さ(税務調査の手間やコストが大きい)

北欧5ヵ国が採用している二元的所得税は、勤労所得と資本所得を明確に区別し、それぞれに異なる税率を適用する仕組みです。日本でも導入が検討されたものの、完全な実現には至りませんでした。

日本の税制改革では、金融所得課税の見直しや投資優遇策が進められていますが、北欧のような本格的な二元的所得税への移行は今後も課題となるでしょう。

矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員