憧れのマイホームを手に入れたものの、その後の人生設計が崩れてしまうケースは少なくありません。高収入世帯であっても、さまざまな要因によって住宅ローンが重荷となり、住み替えを余儀なくされることも。とくに、タワーマンション(以下タワマン)には「ならでは」ともいえる、少し特殊な事情もあるようで……。

タワマンを買うために節約してきた夫婦

鈴木さん(仮名/35歳)は、1歳年上の妻と5歳になる娘の3人家族。夫婦共働きで、夫婦2人とも大学進学のタイミングで上京し、都内の会社に勤めています。鈴木さんの年収は1,000万円(月収約56万円・賞与別)、妻の年収は600万円(月約50万円・賞与なし)で、世帯年収は1,600万円。2023年賃金構造基本統計調査によると、35~39歳の男性の平均月収は約33万8,000円、女性は約27万円で、世帯年収約730万円が平均とされます。これに対し、鈴木さん夫婦の収入はかなり高い水準です。

2人には共通の夢がありました。それは、眺めのよいタワマンに住むこと。夢を叶えるために、休日は娘と遊ぶ以外ほとんど外出せず、共働きながら妻は毎日手作り弁当をこしらえ、外食も控えていました。娘が生まれるまでは、家賃込みで月10万円の質素な生活を送り、コツコツ貯金を続けてきました。そして、都内の賃貸アパート暮らしから一大決心をします。

夢が現実となったとき

鈴木さん夫婦が選んだのは、文京区にある高級タワマン。駅近で、夫婦お互いの通勤にも都合がよく、娘の小学校も徒歩圏内。1億円超で購入しました。眺望のよさと教育環境が決め手でした。

購入にあたり、両親からの援助と貯金の一部を頭金2,000万円として拠出し、残額を35年固定金利1.5%のペアローンで借りました。毎月の返済額は約31万円、管理費約2万円、修繕積立金約2万円を加えた住居費は約35万円に。世帯年収の約26%で、一般的な「年収の25~30%以内」の基準をほぼ満たす、無理のない計画です。

貯金に回せる額は減りましたが、これまでの節約生活を続けていくことで娘の教育費も賄えると見込んでいます。妻は「家計簿でしっかり管理する」と意気込みました。

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娘からの訴え

新生活が始まり、娘は近所の小学校に通いはじめました。通っていた幼稚園からは離れた学区だったため、最初は友達ができるか心配でしたが、すぐに馴染み、同じタワマンや近隣の子たちと遊ぶようになりました。

小学校入学から1年後、娘は小学校2年生になりました。夕食中に娘は無邪気に話しだします。

「私もみんなと同じ中学に行きたい」名前を挙げたのは近隣の私立中学。友達が中学受験を目指していると知り、娘も影響を受けたようです。さらに、「友達の家はホテルみたいで、ピアノがある」「英会話や習字も習ってる」と話し、自分もピアノや塾に通いたいと言いだしました。

鈴木さん夫婦は公立中学・高校から私立大学に進んだ経験しかなく、娘も同様の進路を想定していました。しかし、タワマンに住む子どもの親は、鈴木さん夫婦のはるかに上をゆくような高所得者(経営者や役員など)が多く、教育費に多額を投じる環境に驚きました。習い事程度なら対応可能ですが、ピアノ購入や中学受験となると家計が厳しく、物価高も相まって不安が募ります。

もうひとつの想定外

娘にはピアノを我慢してもらい、英会話教室と塾に通わせることに。すべての希望は叶えられませんでしたが、友達と一緒に通えるため、娘も納得しました。

ところが、夫の会社では組織の大幅編成があり、マイホーム購入時には想定もしていなかった転勤話が浮上。単身赴任になると手当があっても二重生活で出費が増え、家計が圧迫されます。

話し合いの末、タワマンを売却し、家族一緒の生活を優先することに。妻のテレワークを活かし、都心から離れた場所で一軒家を購入しました。数年かけて資産形成し、やっとの思いで手に入れたタワマンはわずか1年で手放すことになったものの唯一の後悔は、ライフプランを見誤り、娘を友達から引き離したことだといいます。娘を悲しませないよう、無理のない人生設計を立て直しています。