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●『帝国ホテル 東京』が食領域におけるサステナビリティの取り組みを発信する場として毎年開催している「サステナビリティフォーラム」。今年は帝国ホテル第3代総料理長・杉本雄さんとともに食材探しに帯同するツアーを主催。舞台は京都北部。その模様をお伝えします。

 日本を代表するラグジュアリーホテル『帝国ホテル 東京』。近年、食の領域におけるサステナビリティへの取り組みが注目されています。


耳まで白くて新食感なサンドイッチ用食おあん「W・E Bread(ウィーブレッド)」

 耳まで白く新食感の食パン「W・E Bread(ウィーブレッド)」や、野菜や果物の端材などを活用した「サステナブルソルト」など、廃棄を極力出さないサーキュラー・エコノミーを意識したレシピ開発に取り組んでいます。この取り組みの指揮をとるのが、帝国ホテル第3代総料理長の杉本雄さんです。


帝国ホテル第3代総料理長・杉本雄さん。武蔵野調理師専門学校を卒業後、帝国ホテルに入社。2004年に退社し、渡仏。13年間欧州で過ごし、1835年創業のホテル『ル・ムーリス』では、ヤニック・アレノ、アラン・デュカスという世界的シェフのもとでスーシェフを務め、同ホテルの星付きのメインダイニングでは責任者を担う。2017年に帰国後、再び帝国ホテルへ。2025年第3代総料理長に就任

 杉本さんが食領域でのサステナビリティに対する考えに影響を与えたのが、2016年の「パリ協定」での出来事。フランス全土で環境問題に取り組み、国民全体が環境改善に取り組む姿と熱意を目の当たりにし、日本とのギャップを感じたそうです。

 また、世界的な新型コロナウイルスの影響により、ホテルにおいても食材供給が途絶え、生産者が苦境に立たされる状況を経験したことも大きな契機に。このツアーでは、帝国ホテルが食材調達や環境問題にどう向き合い、どのようにホテルの料理へと昇華させているのか。杉本料理長が日ごろ食材や生産者とどう向き合っているのか、間近で体験してきました。

古きよき文化とモダンが融合する街・京都

 今回のプレスツアーの舞台となった京都府は杉本料理長もプライベートで何度も足を運ぶそうで、「京都に対してパリジャンのエスプリをすごく感じます。古きよきものを大切にして、今もうまく融合しようとしています」と好きな街の一つとのこと。


丹波ワイン株式会社

 2026年春に『帝国ホテル 京都』の開業を控える中、京都の食材や生産者とどのように手を結んでいくのか。第一歩として、まず訪れたのは『丹波ワイン』です。

『丹波ワイン』は、1979年に京都府船井郡京丹波町で設立されたワイナリー。創業者の黒井哲夫氏は、当時照明器具会社の社長を務め、欧米で飲んだワインに感銘を受けたことから私財を投じてワイナリーを築くことに。


一般向けの醸造ツアーを開催。ショップでは、「未濾過ワイン」などここでしか手に入らない一本もあります

 ブドウの栽培からワインの製造・販売までを一貫して行い、年間生産量は約50万本と関西最大規模。国内外のワインコンテストでも様々な賞を受賞し、世界的な美食家、ソムリエにも評価を受ける日本を代表するワイナリーでもあります。


京都府京丹波町を中心に自社畑を持ち、北海道の壮瞥町(そうべつ)にも試験的な畑があるそう

 ブドウ畑では、ピノ・ノワール、タナ、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ブラン、シャルドネなどが栽培されています。栄養の行き渡りを均等にするため、定期的な剪定や葉の間引きを行い、収穫のタイミングにも細心の注意を払っています。

 社員総出で収穫したブドウは、最初に除梗機と破砕機にかけられます。果汁を抽出しやすくした後に、風船状のパーツを用いた特殊な圧搾機を使用して果汁を抽出。ゆっくりと空気を送り込みながらブドウの実を押し広げることで、ストレスを最小限に抑え、雑味のない果汁を得る工夫がされています。


樽とワインの香りに包まれて

 赤ワインの場合は、果皮や種を含んだ状態でタンクに入れ、一次発酵を行います。この工程で、色素やタンニンが抽出され、赤ワインならではの味わいが形成されます。白ワインの場合は、搾りたての果汁を直接発酵タンクに移し、じっくりと醗酵しているそうです。

試飲タイムでは、スパークリングからヴィンテージまで


お待ちかねの試飲タイム

 試飲タイムの始まりは、スパークリングワインの「てぐみ」から。ブドウのフレッシュな香りが広がり、爽やかな酸味とフルーティーさのバランスが良い一本。酵母由来のきめ細やかな泡が心地よい余韻を残します。


食前酒、乾杯の1杯目に。スパークリングワイン「てぐみ」

「Tannat Vintage 2020」(手前)、「京都 ピノ・ブラン」など

「Tannat Vintage 2020」は、タナ種特有の力強いタンニンと濃厚な果実味が特徴の赤ワイン。柑橘系の香りや白い花のニュアンスが感じられる可憐な「京都 ピノ・ブラン」など、どれも個性がしっかりと確率していました。「京都の食文化に合うワインを創る」という理念のもと、丁寧な手仕事によって生まれているのが良くわかるワインです。


「京都丹波ピノ・ノワールVintage2020」とともに。ボロネーゼなど牛のコクと相性が良い

併設のレストランやバーで実際に味わえます [食楽web]

 サステナブルな取り組みとしては、ブドウの搾りかすを堆肥として畑に戻すほか、家畜の飼料やチーズの熟成用カバー、染色材料としても活用しています。使い終わったワイン樽は、日本酒や焼酎の熟成用に提供され、循環型の資源として、さらに天然コルクの代わりに「ノマコルク」を採用することでワインの品質を安定させつつ、自然資源の保護にも力を入れています。

 訪問を終え、杉本料理長は、「サステナブルな視点を取り入れた今後の繋がりに期待したいと思います」と締めくくりました。

 次回は、『向井酒造』と『丸利𠮷田銘茶園』での訪問の様子をお届けします。お楽しみあれ。

(撮影・文◎亀井亜衣子)

●SHOP INFO
丹波ワイン

住:京都府船井郡京丹波町豊田鳥居野96
営:10:00~17:00
TEL:0771-82-2003
休:木曜※1月2月は毎週火水木曜日定休、9-12月は無休、年末年始休業
https://www.tambawine.co.jp/