
セブン‐イレブンは1974年に日本初のコンビニエンスストアとして1号店をオープンし、華々しい成功を収めた。一方で、お客様の立場を先鋭化しすぎた結果、食品廃棄ロスや加盟店と本部の対立構造など、問題を抱えることになったのです。本稿では、北海道大学大学院経済学研究院准教授の満薗勇氏の著書『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(中央公論新社)より詳しく解説します。
セブン‐イレブン創業者が語るPOSデータの意義
お客様の実像を捉えるうえで重要な意味をもったのが、POSシステムから得られるデータであった。鈴木はPOSデータの意義を次のように説く(『財界forum』1998年11月)。
私どもがPOSを使うことに決めたのは、アメリカの小売店の真似をしようとしたわけではありません。/お客様が今日はどんな商品を買っているのか、またお客様の買い方はどんなふうに変化しているのかなどを、客観的なデータとしてきちんととらえなければ、これからの経営は成り立たないという考え方がまずありました。/
そのために、システムの専門家の皆さんに、こういうデータがとれるシステムをつくって欲しいとお願いし、NECさんや野村総研さんにたいへんお骨折りいただいた結果できあがってきたのが、私どものPOSシステムです。/
そういうシステムを構築して、毎日データをずっと読み続けてきますと、それまで感覚的にとらえていたものとは違ったお客様の姿が、自然に見えるようになってきます。こう言うと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、私には、まさにお客様の姿が見えるという感じがします。
ただし、POSデータが示すのは、あくまでもその日の結果である。鈴木は以下のように、POSデータはあくまでも仮説と検証の手段にすぎないと強調する(鈴木敏文『挑戦 我がロマン――私の履歴書』日経ビジネス人文庫、2014年)。
もの不足の売り手市場の時代には、昨日売れたものは明日も売れた。昨日のニーズと明日のニーズは同じだった。だから、誰が考えても答えは同じだった。/しかし、もの余りの買い手市場においては、昨日の顧客が求めたものを明日の顧客が必ずしも求めるとは限らない。昨日のニーズと明日のニーズは異なる。だから、昨日の延長上で考えるのではなく、明日のニーズについて自分で仮説を立て、今日やるべきことを考える。/
この仮説が正しかったかどうか、POSで販売の結果を調べ、検証する。あるいは、POSデータの中から売れた個数こそ少なかったが、売れ行きの速さなどから明日は新しい売れ筋になりそうな商品について仮説を立てる。POSはあくまでも仮説と検証をより効果的に行うための手段であって、POSを使うことが目的ではない。
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客の心理を読んで消費の傾向を知る
そのうえで、「消費は経済学でなく心理学で読むべき時代にきている」として(『Keidanren』1999年2月)、お客様の心理を読むなかに仮説と検証のプロセスを落とし込んでいった。
たとえば、釣り船の発着場に近い店舗で、気温が上がりそうな日には、釣り客が「時間が経っても傷みにくいイメージのある食べ物を求めるはず」だと想定し、「梅のおにぎりが売れるのではないか」という仮説を立てる。あるいは、「真冬でも少し汗ばむような陽気の日には冷たい麺がおいしく感じる」と予想し、「冬に冷やし中華を食べる」という仮説を立てる。
このように「お客様の心理を読んで、行動を予測」するところから、明日の売れ筋商品の仮説を立て、結果をPOSデータによる検証を繰り返したのである(鈴木敏文『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』プレジデント社、2022年)。