
2025年4月6日の午前0時頃、中日本高速道路株式会社(以下、NEXCO中日本)のETCシステムに大規模障害が発生した。
NEXCO中日本が管轄するのは中央自動車や東名高速道路など日本の陸上移動や輸送に欠かせない大動脈。そんな重大道路における自動料金収受システムが機能しないというのは移動・流通インフラを支える企業としてはあり得ない大失態といえる。(自動車コラムニスト:山本晋也)
復旧まで「通行料無料」にすべきだった?
同社は、ひとまずETCレーンを開放することで交通の流れを確保しつつ、通行料金についてはWEBサイトを通じて自己申告するという対応を取った。
有人ゲートも存在していると考えると、厳格に料金を収受するのであれば、すべての利用車両をETC非装着車として扱う手も考えられる。だが、それでは混雑とトラブルを生むのは自明であり、ひとまず交通の流れを優先する判断をしたのだろう。その点は道路インフラ企業としての最低限の矜持を感じさせる。
だが、トラブルは日本の基幹道路で発生した。影響を受けたドライバーは膨大な数にのぼるとみられる。料金を徴収するなら、WEBサイトから申告した利用者だけでなく、未申告ユーザーからも徴収しなければ、正直者がバカをみることになり、極めて不公平だ。
一方でそうした手間をかけることは効率を考えれば不合理であり、これだけの大規模トラブルを起こした企業が利用者に支払いを求めるというのは社会的な理解も得づらいだろう。
そもそもETCトラブルが自社の責任なのであれば、復旧までは通行料を無料にすべきだ、との考え方も成り立ちうる。
実際、このトラブルを報じるネット上の記事には「なにがなんでも料金を取ろうとの意思を感じる」「これだけ多くの人に迷惑を掛けておきながら、入金しろとは。普通は全部無料開放して当然だ」と憤るコメントも目立った。
同社の供用約款には、<会社の責任>として「第10条 高速道路の設置又は管理に瑕疵があったために利用者に損害を生じたときは、会社は、これを賠償する」とあり、誠意を示す余地はありそうだが。
料金徴収についてNEXCO中日本の回答
そこで、この供用約款料も踏まえ、料金徴収についてNEXCO中日本に問い合わせると、以下の回答があった。
「高速道路は、道路整備特別措置法にもとづき、道路を利用した自動車から料金を徴収することになっています。既に料金をお支払いいただいて通行いただいた方もいることから、通行料金を無料とすることについては、通行料金を支払いされた方との公平性を損なう可能性があります。
当社としましては、ご迷惑おかけしていることをお詫びするとともに、ご通行いただいた方へWEBサイトなどでのお申し出、お支払いをお願いしていく所存です」
そのうえで同社は、事後清算しない、応じない場合の対処として「ご迷惑おかけしていることをおわびするとともに、今後も引き続きお申し出、お支払いをお願いしていく所存です。なお、対象時間帯に高速道路のご利用が確認された方に対しては、当社より利用状況を確認させていただく場合がございます」と現状の方針を示した。
トラブル発生の原因について、同社は「新たな深夜割引に向けたETCシステムの改修作業を実施してきており、4月5日にも作業を実施していたことから、この新たな深夜割引に向けた一連の作業が今回のシステム障害に関係しているものと想定しているところです」と9日時点の状況を明かした。
7月開始予定の高速道路の深夜割引制度とは

新・深夜割とは(shuu / PIXTA)
物流業の関係者や高速道路のヘビーユーザーならご存知のように、2025年7月より高速道路の深夜割引制度が大きく変わる。割引時間帯を現行の0~4時から22~翌5時まで大幅に拡大するかわりに、割引適用範囲(走行距離)が狭くなる。
具体的には、現行制度では割引時間帯に走行すれば全走行分が割引対象となっているが、新制度では割引適用時間帯に走行した分だけが割引される仕様となっている。
さらに速度超過走行を抑止するために、上限距離が新設されるのも新制度での特徴。この考え方自体は交通安全にも貢献する内容で批判すべきではないかもしれないが、各車の走行距離を算出する方法はそれなりに複雑なものとなっている。
たとえば、割引適用時間帯をまたいで走行した場合に、割引適用時間帯を走った距離については、利用車両それぞれのETC無線アンテナ通信記録から平均速度を算出して、22時と翌5時の位置を推定することとなっている。
おそらく上記の文字だけで読んでも、なにをどうするのかわかりづらいかもしれない。それでも、わざわざ複雑な深夜割引システムに“改修”しているということは理解できるのではないだろうか。
トラブルの原因は特定できていないが…
今回のトラブルが、こうした“システム複雑化”に伴うものだとすれば、同じプログラムを中日本以外のNEXCOに展開することは難しくなるだろう。抜本的な見直しも必要不可欠だ。
いずれにせよ、新年度が始まって最初の日曜日というタイミングは不幸中の幸いだったのかもしれない。
今回のトラブルについては4月7日14時にすべて復旧措置が完了したという。おそらく旧システムに戻すというあくまで応急的な対応をしたと想像できる。
とはいえ、原因は特定できておらず、その結果いかんでは新割引システムの今後の導入スケジュールへの影響も懸念される。その点について同社は、「現時点では未定」としている。
道路はインフラであり、スムースに利用できることが最優先されなければならない。システムトラブル発生の危険がぬぐい切れないならば、深夜割引制度の変更タイミングを後ろにずらすなどの対応も必要なのかもしれない。
ネット上では今回のトラブルへの謝罪を求める声もあるが、今日9日、同社の定例会見が予定されており、同社も、「できる限りお応えしたい」としている。その場で、トップがなんらかの見解を示すことになりそうだ。