
生きづらさを抱えるユース世代(13~25歳)の支援にあたる認定NPO法人「D×P」(ディーピー=Dream times Possibility)は、同法人がLINEを用いて行う進路・就職・生活相談サービス「ユキサキチャット」で「闇バイトに関するアンケート調査」を実施。
4月8日、都内で会見を開き、孤立と困窮から闇バイトに手を出してしまう若者たちの実態を伝えるとともに、救済するための手段を訴えた。(榎園哲哉)
犯罪組織の“使い捨て”にされる若者たち
「即日現金」――。
ネットなどに流れる甘言につられて応募し、オレオレ詐欺の「受け子(カード等を受け取る役目)」や「出し子(口座から引き出す役目)」、違法薬物等の「運び屋」、「叩き(強盗)」など、犯罪に加担することになる闇バイト。
オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺の被害は、各種対策にもかかわらず増え続け、昨年の認知件数は2万987件、被害額は721.5億円にも上っている(警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」より)。
一方で、闇バイトに応募した人からの相談を受けて、警察が本人や家族を保護したケースが昨年10月から12月末までの約2か月半で181件に上っていたこともわかっている。保護されたうち約7割を若者たちが占めている。
警察庁は今年2~3月、「必ず逮捕され、厳罰を受けます。『闇バイト』は犯罪です」などと車体横に書いたアド(広報)トラックを東京都など1都3県で走らせ、啓発。
またHPでも「逮捕されたあとに待ち受けるのは懲役や加害者への損害賠償です。もちろん犯罪グループは助けてくれません。闇バイトは使い捨てです」と警告し、相談ダイヤル「#9110」などへの相談を呼び掛けている。
若者の約1割が闇バイトを「経験、周囲が経験」
SNSを通じて若者たちの“声”を聞く「ユキサキチャット」。運営している「D×P」の今井紀明理事長によると、登録者数は「非常に増えてきている」。
2022年3月の開設時に約7800人だった登録者数は、3年間で2倍超の約1万6000人となったという。
今回実施された「闇バイトに関するアンケート調査」は、今年1月末から2月15日までの間のチャット利用者9008人に打診し、男女512人から回答があった(回答率5.6%、平均年齢20.1歳)。
調査からは、孤立し、困窮する若者たちが置かれている衝撃的な状況も浮かび上がった。
闇バイトの経験についての問いには、11.7%が「経験がある・周囲に経験がある人がいる」、また26%が「お金に困ったらやるかもしれないと思う」と回答した。
経験者(周囲に経験者)の認知経路(複数回答)は、「たまたまSNSで表示された」(36.7%)、「SNSでやりとりがある人から誘われて」(25%)、「自分でSNSで探した」(23.3%)と、SNS上に潜む“落とし穴”を印象付けた。
闇バイトを検討する理由(同)は、81.1%が「生活費・奨学金返済・病院代・税金支払いなどにお金が必要なため」と生活困窮を挙げた。
相談先(同)としては、44.1%が「警察」を挙げる一方、31.6%が「どこにも相談しない、(相談先が)わからない、判断できない」と回答。さらに、そのうち46.9%が「相談しても解決できなさそうだから」と親や社会への“不信”を理由に挙げた。
「3人に1人が相談しない、どこに相談すればいいか分からない、という状況は深刻だ。この国には若者たちへのセーフティーネットがあるようでない」(今井理事長)
若者たちをどう救うか
3月の厚労省発表によると、昨年の小中高生の自殺者数は529人(前年比16人増)に上り、統計のある1980年以降、過去最多となった。
親や社会を頼れない若者たちの環境を、少しでも改善し、民間のセーフティーネットとして機能しようと取り組む「D×P」。
団体や個人から寄せられた支援を基に、「緊急支援パック(緊急で8万円給付+チャット相談)」「短期支援パック(3か月間、月1万円と食糧を給付+チャット相談)」など、一人一人の状況に応じたサポートで若者たちを手助けしている。
食糧支援についても、「基本セット」のほか、ゼリーや飲み物を多めにした「療養セット」も作るなど、きめ細かくサポートしている。
記者会見では、5月30日まで行うクラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/dxp-sos-2025spring)への協力も呼び掛けた。寄せられた支援は事業の拡充等に充てる。
「助けて、と言いやすい環境つくってあげたい」
前述したように国も、闇バイトからの若者たちの“救済”に力を入れている。
警察庁のIHC(インターネット・ホットラインセンター)はおととし9月に、運用ガイドラインを改定。
「闇バイト」「ホワイト案件」「運びの仕事」等、犯罪の実行者の募集を示唆する表現が記載されたネット上の投稿についても、違法情報(職業安定法違反等)と認定。通報対象となった。
これに対し「D×P」の今井理事長は、若者たちが闇バイトに走る理由には「家族に頼れない」「失業中」など複合的な背景があると指摘。こうした取り組みに加え、各人の状況に応じた「福祉的支援策を講じていくことも大事ではないのか」と訴えた。
さらに、「(窓口や電話で)相談するハードルが高い」という回答が多いことにも触れ、「オンラインで相談できるようにするなど、(支援につながるための)アクセシビリティーを向上させることも急務だ。『助けて』と言いやすい環境をつくってあげたい」(今井理事長)。
「闇バイトで捕まった」という相談も受けることがあるという今井理事長。闇バイトに狙われる前に、犯罪に巻き込まれる前に、孤立し困窮する若者たちをいかに救えばいいか。かつて社会から孤立した時期があった自らへの問いでもあるとして、活動の意義を力強く語った。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。