高齢になっても健康なまま生活したい、と考えたとき食事に気をつける方も多いでしょう。しかし食事にも私たちは無意識な偏見を向けています。そこで本記事では、医学的観点から肉を食べたほうがよい理由や、好きなものを我慢せずとことん食べるメリットを、70代、80代を楽しく生きるために知っておくべき「新常識」について和田秀樹氏が著した著書『70代、80代を楽しむためにこれだけは知っておこう!』(かや書房)より一部抜粋・編集して、詳しくご紹介いたします。

肉を食べて老化予防:タンパク質中心の食生活を心がける

アミノ酸を多く含むタンパク質が重要

脳の老化は前頭葉から始まります。前頭葉とは大脳の前部にある部位の1つであり、知能や人格、理性、言語、運動などを司っています。ここが衰えてくると怒りっぽくなったり、気分がふさぎ込んで不機嫌になったり、意欲や好奇心が失われたり、身の回りに無関心になったりするほか、長引けばうつ状態になってしまいます。さらには車の運転に必要な注意力や判断力といった能力の低下にもつながります。

その意欲や判断力、記憶力の衰えは、加齢による男性ホルモン(テストステロン)の分泌の減少によって引き起こされます。では、この減少を食い止めるにはどうすればいいのでしょうか?一番手軽にできることは、男性ホルモンの分泌促進効果がある食べ物を摂取することです。男性ホルモンの分泌促進には、アミノ酸を多く含むタンパク質をとることが必要です。そして、その理想的な食べ物が「肉」なのです。

肉にはトリプトファンという必須アミノ酸が多く含まれています。これはセロトニンという神経伝達物質の材料となり、肉に含まれるコレステロールがこれを脳に運んでくれると考えられています。

セロトニン不足が認知症の原因になる

セロトニンとは別名「幸せホルモン」と呼ばれ、幸福感と密接に結びついている物質です。これが減少してくると気分が沈んだり、イライラしたり、感情の不安定さを招きます。しかもセロトニンは加齢によって減少していく物質であり、その減少が認知症の原因となります。このように、タンパク質が不足すると様々な弊害が生じます。肉を食べることは、セロトニンをつくる手助けにもなるのです。

肉以外にも、男性ホルモンを合成するために必要な亜鉛を含んだ食材(牡蠣など)、末梢血管を広げて血行を促進して脳を活性化するビタミンEを含んだ食材(ほうれん草など)、認知機能や筋肉の衰えを防ぐビタミンDを含んだ食材(鮭など)なども有効です。加齢とともに徐々に食が細くなっていくので、普段の食事にできるだけこれらの食材を取り入れて、日頃から認知症予防を心がけていきましょう。

物事を記憶するのに役立つのが意欲&好奇心

高齢者の方々は男性ホルモンが減少しがちです。これが減っていくと、物事に取り組む前向きな意欲が衰えてきます。

物事を記憶するのに役立つのが「意欲」や「好奇心」ですので、男性ホルモンの低下は、記憶力を減退させることにつながっていくのです。男性ホルモンが減少してきますと、短期記憶を担っている神経伝達物質「アセチルコリン」がつくられにくい状態になります。

最近の研究では、男性ホルモンが記銘力の中枢である海馬という部分に直接働きかけることも知られています。つまり男性ホルモンが減ると、記憶力が悪くなってしまうのです。

健康の良し悪しは総合的に判断しよう

それでは、男性ホルモンの減少にはどう対処すればいいのか?

答えは、先ほども説明しましたように、肉や魚などのタンパク質を多くとることです。食べ過ぎると「コレステロール値が高くなるから」と気にする方もいらっしゃいますが、一般的に言われている「善玉コレステロール値」や「悪玉コレステロール値」というのは、数値がいわゆる「正常値」より少々高くても健康には関係なく、逆にコレステロール値が低いと問題が起こります。

善玉、悪玉という区別は動脈硬化にとってだけの話で、実は悪玉コレステロールと言われるものが男性ホルモンの材料になっているのです。「私は胃が健康だ」「私は脳の衰えが少ない」と言っても、胃だけで生きている人はいませんし、脳だけで生きている人もいません。「健康の良し悪し」は総合的にしか判断できず、その「総合的」な判断をするには、「統計」しかないのです。

統計によると、コレステロール値が少し高めのほうが長生きできるということなので、それが最も健康的な方法という結論に至ります。

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我慢をしない食事法:身体が欲しているものを素直に食べよう

好きなものをどんどん食べる

歳をとってくると、食欲が落ち、食が細くなっていく一方です。しかし、食事は軽食だけで済ませないようにしましょう。どうしても食べる気にならない人は「好きなもの」を食べてください。

好きなものなら、食欲がなくても食べられるでしょう。肉や魚、麺類から加工食品、ジャンクフードまで何でもOKです。身体(脳)が欲しているのであれば、食べたいと思っているのであれば、その気持ちを優先しましょう。

加工食品に関していえば、発がん性物質を多く含んでいるなどと言われているものもありますが、食べて発症する確率的には、100万人に1人とか、ごく稀なスケールの話です。それをいちいち怖がっていたら、何も食べられなくなります。

中国や台湾では、人工調味料をたくさん使うようですし、中華料理などには味の素(うま味調味料)が当たり前のように入っています。それに比べたら日本の食品添加物なんて、微々たるものです。

慢性的アレルギーは人それぞれ違うもの

一般的に身体に良いとされている食べ物が全ての人に効果的だとは限りません。慢性型のアレルギーは一人ひとり違うものです。以前私も「海藻やそばが良い」と検査で言われたので、意識してたくさん食べていたら、逆に海藻やそばの慢性型アレルギーになってしまいました。一般的に「身体に良い」と言われているものでも、自分にとっては悪いこともあるのです。

そのように考えると、「誰にとっても良いものや誰にとっても悪いものって意外にない」という考えをしたほうが人生を楽しく生きることができます。カレーや牛丼など、高カロリーな食事でもそのときに食べたいものを食べればいいし、夜中でもラーメンを食べたければ食べればいいのです。

私はラーメン屋巡りが大好きですし、カップラーメンも食べます。自分の身体や脳が欲するサインに対して素直に応じ、食べたければ食べればいいのです。

朝のブドウ糖不足には要注意

コレステロールが脳に良い、という話を先ほどしましたが、脳にしっかりと栄養が行き渡るように食べるという意味では、朝食はしっかりとりましょう。朝はブドウ糖が不足しているからです。

一般的に、人は朝食と昼食の間は4時間ぐらいしか空きません。昼食と夕食の間は、だいたい7時間ぐらいです。ところが、夕食を食べてから朝食までの時間は12時間ぐらい空きます。そのため、低血糖を一番起こしやすい時間帯は、朝なのです。

ブドウ糖が不足した状態というのは、脳の働きにとって絶対に良くありません。もちろん記憶力に関しても大きなマイナス要因です。脳はものすごくエネルギーを消費します。1日中勉強をしていると、運動もしていないのに、お腹が空いた経験のある方も多いことでしょう。朝は、ブドウ糖が不足した脳にできるだけ早くエネルギーを補給する必要があるのです。