認知症を予防するには「小さくてもよいので趣味をもつことがよい」と医師の和田秀樹氏はいいます。本記事では、和田氏が70代、80代を楽しく生きるために知っておくべき「新常識」について著した『70代、80代を楽しむためにこれだけは知っておこう!』(かや書房)より一部抜粋・再編集して、認知症の予防・進行抑制に役立つ「脳を活性化させるコツ」を詳しく解説します。

認知症を予防する3つのポイント:習慣を見直して認知症の発症を遅らせよう

認知症の種類と脳の健康を保つポイント

70代を超えると、程度の差はあっても、誰でも認知症を発症する可能性が出てきます。認知症には主なものとして「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」があります。

これらは、先に脳のどこが悪くなるのかという分類であり、実はどのタイプの認知症でも、次第に脳内にアルツハイマー型の変化が起こります。最終的に認知症がひどくなるのは、アルツハイマー型認知症にかかるからです。例えば85歳まで生きるとテスト上でアルツハイマー型認知症と診断されるケースは同年代の3、4割とも言われています。



[図表1]認知症の原因となる疾患の内訳 出典:厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」
認知症の原因となる疾患には主に「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4つがあり、このうち70%弱を占めるのがアルツハイマー型認知症です。

しかし、次の3つのことを実践することで、脳の変化は止められなくても、認知症の発症を遅らせることができます。アルツハイマー型の変化が小さいのに、実際には認知症のようになってしまう状態を防ぐことができるのです。

認知症の発症を遅らせる3つのポイント

第一は、「運動をすること」。日光の出ている時間帯に30分程度の散歩をすることがおすすめです。

第二に、「タンパク質をとること」。タンパク質は、セロトニンの材料になったり、そのセロトニンを運ぶ男性ホルモンを増やしたりしてくれます。血管もタンパク質からつくられています。タンパク質の少ない血管は、血圧の高さによって伸びたり縮んだりしませんから、血圧が140とか150になると、すぐに破れてしまいます。栄養状態の悪かった時代には、日本でもこのくらいの血圧で脳卒中が起こっていました。現在では200でも血管は破れません。ですから、そういった意味でも歳をとればとるほど、肉類などのタンパク質を多くとることをおすすめします。

第三が、「水分を十分にとること」です。現在、日本人の脳梗塞の原因として圧倒的に多いのが、動脈硬化(血管が硬くなって柔軟性が失われている状態)なのです。動脈硬化が起こると、脳の血管が詰まりやすくなり、脳梗塞が起こります。その原因の大きなものは水分不足で、水分を十分にとらないまま血液の中で脱水状態が起こると、血液がドロドロの状態になり、動脈硬化が起こっている血管内で詰まりやすくなるのです。

なお、人間ドックなどで「脳の萎縮が進んでいる」と言われても、多くの場合、認知症とは関係がありません。脳が多少萎縮していたとしても、ちゃんと使ってさえいれば、支障はなく、アルツハイマー型の変化さえ始まっていなければ、ほとんど問題はないのです。

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趣味による認知症の予防効果:趣味を持って意欲的に活動することが認知症を遠ざける

趣味を持ち続けることは脳を活性化させる

趣味がない人は、定年後、頭を使わなくなりますから、認知症になるかどうかは別にしても、ボケたようになりがちです。さらに、前頭葉が弱って意欲が衰えてしまうようになると、本当に認知症になったり、なった際には速く進行したりする確率が高まります。一方、趣味のある人は、仮に将来、認知症になってしまっても進行が遅い傾向にあります。

趣味としておすすめなのは、文章を書くことです。お金はほぼかからず、いつからでも始められます。最も手軽な趣味です。認知症になった人に対して医者ができることは、脳を活性化させる薬を使って少しでも脳を動かせるようにすることと、デイサービスや買い物、料理などをすすめて、頭を使わせることです。このときにものを書く趣味があれば、それをやってもらえればいいのです。

認知症になってからでは、趣味を見つけてもらうことは困難です。40代、50代、60代のまだ脳がボケる前から文章を書いていれば、それが脳の老化予防になりますから、認知症にもなりにくいのです。仮に脳が衰えても、認知症の発症が遅くなり、たとえ発症したとしても、その後の進行が遅くなる可能性が非常に高いのです。

もし2年間でも認知症の進行を遅らせることができれば、人生のなかで認知症患者として過ごす期間を2年間減らすことができます。その分、人生の質を上げて楽しく過ごせるのです。



[図表2]趣味の種類の数と認知症発症の関係 出典:
日本老年学的評価研究「日本公衆衛生雑誌2020年号」
※年齢、性別が明らかな65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者5万6,624人のうち、 趣味に関連する質問に回答した患者で、365日以上フォローアップできた4万9,705人が対象。趣味なしを基準(1.0)として趣味の数によるハザード比の変化をグラフ化したもの。


[図表3]趣味の種類の内訳

日々の出来事を記す日記でも十分な効果

文章は特別なことを書く必要もありません。日記などでも十分です。京都の駿台予備校で名物講師であった表三郎さんは、京大式カードというB6サイズのカードに、今日行ったことを箇条書きにする日記を付けていました。そこに自分の意見は何も書かれてはいませんが、その日に起こったことや、行ったことを書くことが彼にとって最高のアウトプットになったのだと思います。

しかも、のちに彼はその日記について『日記の魔力 この習慣が人生を劇的に変える』(サンマーク出版)という著書にまとめ、ベストセラーとなりました。

日記以外にブログ、ユーチューブでも構いません。脳を活性化させるためにはインプットよりもアウトプットを意識しましょう。最も簡単なアウトプットの方法は「文章を書く」と「他人と話すこと」です。これらは脳にとって最高の記憶の引き出し=アウトプットのトレーニングとなり、脳の健康を保つ効果があるのです。