4月17日に開幕する舞台『リンス・リピート―そして、再び繰り返す―』は、摂食障害に苦しむ娘と母の関係を中心に、家族のすれ違いを描いた舞台。初日に向けて絶賛稽古中という寺島しのぶさんが、本作のテーマでもある「家族の難しさ」について語ってくれました。

家族だからこそ、遠慮のない言葉で相手を傷つけてしまう

娘が摂食障害を患ったことで浮き彫りになる、家族のすれ違いと苦悩を描いた舞台『リンス・リピート―そして、再び繰り返す―』。寺島しのぶさんは、移民でありながら弁護士としてキャリアを築いた母・ジョーンを演じます。稽古が進むにつれて、寺島さんが実感しているのは「家族の難しさ」。

「やればやるほど、家族って難しいなと思いますね。血がつながっていても……というか、むしろ血がつながっているからこそ言いたいことを遠慮なく言って、相手を傷つけてしまう。とても普遍的な家族の物語なので、この家族をのぞき見るような感覚で観ていただけたらなと思います」

家族、とりわけ母と娘の関係の難しさは、寺島さん自身も経験してきたこと。

「私の母(俳優・富司純子さん)はジョーンのように、絶対的な自信を持って『こうしなさい』と言ってくることはなかったけれど、やはり今でも絶対的な存在ですよね。それは今でも。私も母の発言に対してありがたいと思いながらも、いちいち神経質になってしまう。そこはもう一生拭えないんだろうなと思います。私には娘はいないけど、もし自分のような娘がいたら……と想像すると、面倒くさいかなと思います」

ジョーンが娘のレイチェルに対し、「自分のようになってほしい」と度を超えた期待を寄せてしまうのは、移民であるがゆえに、人一倍苦労を重ねてきたからこそ。

「努力してアメリカンドリームを掴んだジョーンは、娘には移民が味わう苦労をさせたくないという思いから、『成功するには学力と財産が必要』と植え付けている。そうしないと生きてこられなかったジョーンを気の毒にも感じるし、とても痛い話ですよね」

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50代になっても、成長するカギは「好奇心」

本作に限らず、作品を選ぶときの基準は「直感」と話す寺島さん。

「そのときによって動機はさまざま。同じ監督ともう1回挑戦したいと思うし、新しい出会いも大事だと思います。今作に関しては、日本でやるにはちょっとした工夫も必要だし、難しい作品だと感じていたんです。でも演出の稲葉賀恵さんと会って話したときに、私とやりたいことが同じだなと思いました。私自身の母娘の関係とも重なる部分を感じてやらせていただくことにしました」

「大人のおしゃれ手帖」の世代である50代になると、経験やスキルによって何ごとも器用にこなせる反面、成長し続けるのは難しいと感じることも。新たな可能性を探るには、寺島さんは「好奇心」がポイントではないかと話します。

「人との会話でもいいし、読んだ本でもいいし、ちょっとしたことに興味を持って、のめり込んでいく。そうすると、今まで知らなかったことが得られて、“またひとつ付け足すことができた”という気分にはなりますよね。ただ、いつもそういう出会いがあるわけじゃないし、無理に探すものでもない。元気じゃないと、新しいものをキャッチする力もないですしね。それでも、『常にどこかあけておく』ことが大事。50代に入ってからは、特にそう感じるようになりました」

PROFILE
寺島しのぶ(てらじま・しのぶ)
1972年生まれ、京都市出身。1992年、文学座に入団。1996年に文学座を退団後、映画、テレビ、舞台で活躍。父は歌舞伎俳優の七代目尾上菊五郎、母は俳優の富司純子、長男は歌舞伎俳優の尾上眞秀。2003年公開の『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で国内外の数々の賞を受賞。2010年には『キャタピラー』でベルリン国際映画祭の銀熊賞 最優秀女優賞を受賞。舞台でも読売演劇大賞をはじめ多くの賞を受賞。公開待機作に映画『国宝』(2005年6月公開予定)など。

舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』

2019年にニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演され、話題をさらった作品を日本初上演。娘の摂食障害をきっかけに浮き彫りになったいびつな家族関係や、母から娘に受け継がれる愛情と痛みが、リアルな会話を通じて描かれる。

脚本:ドミニカ・フェロー
翻訳:浦辺千鶴
演出:稲葉賀恵
出演:寺島しのぶ、吉柳咲良、富本惣昭、名越志保、松尾貴史
日程:2025年4月17日(木)〜5月6日(火・振休)東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2025年5月10日(土)・11日(日)京都・京都劇場

撮影/番正しおり スタイリング/中井綾子(crêpe) ヘアメイク/片桐直樹 取材・文/工藤花衣