
こんにちは、奈良在住の編集者・ふなつあさこです。4月に入っても寒い日が多かったせいか、今年は桜を長く楽しめた気がします。奈良公園や佐保川・秋篠川沿いの桜並木を満喫しつつも、やっぱり一度は千本桜をハイシーズンに見てみたい! と吉野へも花見に足を伸ばしました。
吉野を訪れる前日、三重県との県境近くの村・奈良県御杖村(みつえむら)のオーガニックコットン肌着ブランド「Sugano ORGANIC(スガノオーガニック)」のファクトリーショップがオープンするというので、寄り道(というにはだいぶ距離があるのですが)してきました。
ショップのオープンには、多くの愛用者の方々が遠くは山梨県からも駆けつけたそう! 父母の代から作られていたオーガニックコットン肌着を「Sugano ORGANIC」としてリブランディングしたスガノ工房の青海(せいがい)さんのお話を聞けば聞くほど、触れたくなり、着たくなる、奥深い魅力をお伝えします。
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縫い糸もレースもコットン100%の肌着
やわらかな伸縮性を持つオーガニックコットンのニット生地で仕立てられたSugano ORGANICの肌着は、薄くて軽いのにふんわりとしており、たっぷり空気を含んでいて吸水性、保湿性、保温性に優れているのが特徴。からだを締めつけることなくやさしく包んでくれます。そして、白と茶と緑の3色展開(緑の展開がない製品もあります)なのですが、これはいずれも、漂白も染色もしていない綿そのものの天然の色なのだそう。
オーガニックコットンとは、農薬や化学肥料を使わずに有機栽培されたコットンのこと。厳しい世界基準も定められています。そんなオーガニックコットンを、一切ケミカルな処理を加えることなく奈良県内でニット生地にし、スガノ工房で縫製しています。「だから糸が元気なんです」と、青海さんは言います。髪をブリーチしたり染めたりすると傷むのと同じようなことがコットンの糸にも起きると考えるとわかりやすいですね。
Sugano ORGANICの肌着に使われている“元気な糸”はアメリカ・ニューメキシコ州のサリー・フォックスさんの畑で育てられた「FOX FIBRE®️(フォックスファイバー)」。完全無農薬で栽培されていて、古代種に近いとされる有色のコットン(カラードコットン)を蘇らせたのもサリーさんなのだとか。
ちなみに本来、綿糸はあまり伸び縮みしないため、コットンの肌着でもショーツのウエスト部分や股ぐりなどには化学繊維が使われていることがほとんど。ところが! Sugano ORGANICでは飾りで使われている清楚なレースもオーガニックコットン。そして縫い糸にはコットン糸が使われているのです。
青海さん「そもそもニット生地自体が縫いづらいのですが、ほどよくテンションをかけながら縫うことができる縫い子さんがいてくれているので作れるんです」
そんなスゴい技術を持った縫い子さんが何人いるかというと、たった3人。Sugano ORGANICの肌着はこの3人の縫い子さんたちが全て手で縫製しているというのだから驚きです。
青海さん「お客さまのなかには、生地はコットンでも縫い糸が化繊だと肌に触れる部分が点線状に赤くかぶれてしまうという方もいらっしゃいます。うちの肌着は肌に触れない部分にはゴムを入れていますが、それ以外は全てオーガニックコットンを使っているので、一度お使いいただいて“肌着を全部買い替えた”という方もいらっしゃいます」
私は割と肌が強いほうだと思いますが、それでもバイオリズムによっては痒くなったり、謎のブツブツに悩まされることもあります。肌が弱い方ならなおさらなはず。
青海さん「そういう人にも着てもらってるのを縫い子さんたちももちろん知っているので、一枚一枚大切に作ってくれているんです」
サリーさんの畑で大切に育てられたコットンを使い、“毎日からだに直接触れるものだから”と3人の縫い子さんたちが丁寧に肌着に仕立てている……。素材にも技術にも血が通っている気がします。
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親子がつむぐ25年変わらないニュートラルなデザイン
Sugano ORGANICを手がけるスガノ工房は、50年前の創業時からしばらくはさまざまな縫製商品を下請けで製造する工場だったのだそう。
青海さん「バスマットやキッチンマットなどの水回りのものから、大手の衣料品メーカーの下請けまでさまざまな商品の縫製をしていました。最盛期には数十人の従業員さんがいて、この近隣には同じような工場が30〜40軒はあったんじゃないかと思います。縫製の仕事が海外に出されるようになってからどんどん減ってしまいましたけど」
オーガニックコットンの肌着が作られるようになったのは、25年ほど前のこと。青海さんのご両親が通っていた整体の先生がオーガニックコットンの肌着を使っていたそうですが、その商品が廃番になってしまったことをきっかけに、スガノ工房さんで作れないかと聞かれたのがきっかけだったそう。
青海さん「従業員も減っていき、今では縫い子さんも母を含めて3人だけですが、それでもオーガニックコットンの肌着は口コミで少しずつ広がり、愛用してくださる方もいたので下請けの仕事と並行して作り続けていたんです」
ところが、6年ほど前にお父さんがお亡くなりに……。
青海さん「私は奈良市内で全然違う仕事をしていたのですが、なんとか家業を続けていきたいと思い、御杖村に戻ることにしました。隣村のデザイナーさんにご協力いただいて、うちのオリジナル商品だったオーガニック肌着をSugano ORGANICとしてリブランディングしました。社名にもブランド名にも入っている“スガノ”はここの地名(菅野)です」
リブランディングとはいいつつも、実は肌着の多くのデザインは25年ほど前から作り続けられてきた形のまま。
青海さん「使っているオーガニックコットンも、ずっと同じフォックスファイバーです。ブランド名は付けましたが、肌着のどこにもプリントしていませんし、洗濯表示も縫い付けていません」
肌が弱い方は洗濯タグもすべて取ると聞いたことがあります。その代わり、肌着を包む紙素材のシンプルな包装に洗濯表示が記載されています。
青海さん「この仕事をする前は、私も全然オーガニックコットンについての知識はなくて、着るものも安さ重視で、こだわりがありませんでした。でも学べば学ぶほど、安い服ほど環境や糸などの生産地に負担をかけていることを知りました。うちで使っているオーガニックコットンは、フェアトレード(発展途上国との貿易において公正な取引をすること)なので、同じコットンでも割高です」
でも、Sugano ORGANICの商品は、ほぼアンダー10,000円。日常的に身につけるのに、手に取りやすいお値段だと思います。
青海さん「企画から製造、販売まで一貫してうちで行っているからできています。自分たちの暮らしの快適さが誰かの負担になることがないように、綿を育てている人たちも含めて豊かに暮らしていければその方がいいと思うんです」
青海さんの話に「息子が頑張ってくれるから、私もまだまだ頑張らな!」とお母さまも明るく笑います。肌着を縫うにはいろいろな種類のミシンを使い分ける必要がありますが、どのミシンも使える熟練の3人の縫い子さんのチームワークは、チリひとつ落ちていない縫製室からもうかがい知ることができます。
「肌が弱い人も使ってくださっているから、ほんの少しの汚れもついたらいけないと思って」。こんなふうに思いながら縫われている服が、今どれだけあるでしょうか。
今回オープンしたファクトリーショップは、ずっと倉庫として使われていた建物を青海さん自身がDIYしたスペース。
青海さん「でも扉は作れないので、この近くの80歳を超えた大工さんに作っていただきました。“最後の大仕事や”って、すごくいい素材を使って作ってくれて。真ん中の什器に御杖村の檜を使っていたり、しめ縄を作っている方に残りの藁でカゴを作ってもらったり、地域とのつながりも大切にしています。このあたりにはこういうお店もないので、すっかり過疎が進んでしまった故郷の活性化の一助にもなったらいいいなぁ、と思っています」
東京の丸の内や吉祥寺に出店していた時期もあることから、関東にもファンが多いそう。一度使うと手放せない、という愛用者が多いのももっともです。そんな方々から寄せられた声に応えて作られた新作が、スリープウェア。縫い目のない筒織の生地が使われているので、からだへのストレスが最小限に抑えられています。
オープン時には、訳あり商品の量り売りやノベルティのプレゼントのほか、ざっくりした風合いの奈良のソックスブランド「yahae」やこちらも奈良の特産品である蚊帳生地のタオルなどを展開している「Nawrap」、スキンケアブランド「石鹸屋りーふ」などのオーガニックなブランドの商品も並んでいました。
また、ショップの隣の隣(正しいです笑)でも日替わりでさまざまなイベントが開催されており、私が訪れた日には、神社のしめ縄などに使われる精麻を使った飾りやアクセサリーの「精麻の和」などが出店していて、オープニングに駆けつけたお客さんたちで賑わっていました。
Sugano ORGANICは関西を中心に百貨店の催事などにも出店していることがあるので、最新情報はInstagramでチェックを!
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おまけに、翌日訪れた吉野の様子をお届けします。5、6回桜の時期の吉野を訪れていますが、今まででいちばんいい状態だったものの、もう2〜3日後の方が綺麗だったかもと思うと、来年またトライしたくなっています……!