50~60代の転職事情は厳しく、転職をするのであれば40代後半~50代前半までがよいと話すのは、ライフシフト研究者の河野純子氏。その際、60代以降で“雇われない働き方”をするための準備という視点も持つべきだといいます。本記事では、ライフシフト研究者の河野純子氏の著書『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集して、60歳以降も働き続けるための「40代以降の転職先の考え方」について解説します。

50~60代では、転職できても給与はダウン

確かに50~60代の転職市場は男女問わず厳しいものがあります。厚生労働省の「転職者実態調査」(2020年)で転職後の給与の変化をみてみると、40代後半まではアップした人のほうが多いのですが、50代前半以降はダウンした人のほうが多くなっています。

アップした人からダウンした人を引いた比率は、40代後半は7.2%ですが、50代前半でマイナス26.2%、50代後半でマイナス17.8%、60代前半でマイナス46.6%、65歳以降でマイナス50.3%となっています。

また転職後の雇用形態をみると50代前半までは70%以上が正社員ですが、50代後半になると正社員比率が57.7%に下がり、契約社員などが増えていきます。60代前半の正社員比率は37.8%、65歳以上は16.7%です。

体験者からも「年齢の数だけ履歴書を出せと言われて頑張ったけれど面接までたどり着けたのは数社のみ」「希望に合う仕事が見つからなかったので転職をあきらめた」という声が聞こえてきます。データからも体験者の声からも厳しい現実が見えてきますが、全く可能性がないわけでもありません。1つ言えることは動くなら早く、ということです。

60歳の定年後に継続雇用を選ぶ人は87.4%ですが、これは動く人はもっと早く動いていて、動かず会社に残った人を対象とした調査なので高い数字が出ているともいえます。

50代転職者の60代になってからの仕事満足度を調べた調査では、50代前半に転職した人は52.6%が満足と回答しているのに対し、50代後半は40.3%に落ちています(「全国就業実態パネル調査2019」リクルートワークス研究所)。

転職するなら40代後半~50代前半に、ということになるでしょう。

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40代後半以降は「雇われない働き方」につながる転職を

これから転職を考える際に、大事なことはその目的です。

40代後半~50代に転職したとしても、わずか3.9%しか存在しない「定年のない会社」に居場所を確保することは至難の業。役職定年がない会社、定年が65歳の会社への転職はあり得ますが、結局は65歳で会社員を卒業することになります。

65歳からは年金が受給できるものの、「雇われない働き方」で月5~10万円程度の収入を得ていく必要があります。そう考えれば、40代後半から50代の転職は「雇われない働き方」への準備を目的とするのが賢明ではないでしょうか。

50代は一番支出の多い時期ですから金銭的な要素も重要ですが、早期退職金をもらって金銭的なリスクは担保し、収入が落ちても「雇われない働き方」にシフトするために必要なスキルや経験が身につく仕事、ネットワークが広がる仕事へ転職するというのは賢い投資です。

例えば三浦陽一さんは、起業準備のために総合商社を50歳で退職し、靴メーカーに転職しました。きっかけは、45歳で次女が生まれたこと。「このままだとこの子が社会人になる前に定年を迎えてしまう。定年のない働き方にシフトしなければ」と考えたのです。

何で起業しようかと考えたとき、思い浮かんだのが貿易の仕事です。特にヨーロッパ駐在が長く、当時駐在していたイタリアには生きた人的ネットワークがありました。

そこで仕事で使えるレベルのイタリア語の勉強を始めたものの、5年の駐在期間を経て帰国して任されたのは、米国との貿易でした。何度かヨーロッパ貿易に戻してもらえるよう直訴しましたが、3年たっても希望は通らず、徐々にイタリアと疎遠になって自分の強みが失われてしまうことが不安に。

そんなとき、仕事仲間からイタリアと深いかかわりのある靴メーカーが人材を探していると声をかけられます。定年まで総合商社にいたほうが年収や退職金がいいことはわかっていましたが、その会社から打診された仕事は起業準備としてはもってこいだったことから転職を決意。

1年半その会社で経験を積み、52歳のときに主にイタリア靴を扱う輸入エージェントとして起業を果たしたのです。とても参考になるケースだと思います。

河野 純子
ライフシフト・ジャパン取締役CMO

ライフシフト研究者