2025年3月中旬、ある施設の階段が危険だと訴えるX投稿が大きな反響を呼んだ。段差が見分けづらく平坦な通路に見えてしまう、などと共感する声が多く寄せられた。足を踏み外しかねないデザインの階段というわけだ。
このような安全上の懸念を示される階段がSNSで話題になったのは、今回が初めてではない。過去にも同様の投稿がしばしば注目を集め、デザイン性を優先して安全性を考慮していないと批判する声が上がっていた。
バリアフリーに詳しい近畿大学理工学部の柳原崇男教授は取材に対し、「大学等で建築デザインを学ぶ学生は、全員がバリアフリーやユニバーサルデザインの講義を受けているわけではありません」と説明しつつ、「そのため建築のデザインにおいてバリアフリーの視点が欠けてしまう事例は多い」と話した。
「滑らかなスロープにしか見えない」
SNSで大きな反響があったのは、平らな通路だと錯覚してしまう人が続出する階段の写真だった。「滑らかなスロープにしか見えない」「ただの通路に見えました」などと共感する声が寄せられたほか、都内の複合施設にある階段ではないかとの指摘もあった。
25年4月4日昼、J-CASTニュース記者もその場所を訪問した。たしかに、写真に写るデザインと同じ階段があった。この階段を降りながらスマートフォンで撮影してみると、画面上では平坦な通路だと錯覚する効果が生まれてしまう。SNSで指摘されるほどの危険性は感じなかったが、目が悪い人には利用が困難になる可能性があると感じた。
投稿のこの写真に写る階段に対し、柳原氏は、「やってはいけないデザインだと思います」と指摘する。「平坦に見間違える可能性があるデザインが使われている。足の踏み場の部分がわかりづらく、色のパターンも途中で変わっているため、誤認しやすいデザインだと思う」と危険性を訴える。
同氏によれば、足を踏み外すリスクのある階段の問題は「視認性の低さ」だ。足の置き場の奥行きを指す「踏み面(ふみづら)」や、一段ごとの高さを指す「蹴上(けあげ)」を、利用者が認識しづらいと怪我をする危険性が高まってしまう。
「階段は、足の踏み場や一段ごとの高さが分かることが重要です。建築をデザインする人は必ずしもバリアフリーを学んでいるわけではないため、弱視の方などに対して配慮する観点が抜け落ちてしまう可能性があります」
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「階段の色のコントラストをつけて視認性を上げることが重要」
建築分野に関するバリアフリーの法律としては、1994年に制定されたハートビル法があり、それが2002年に改正され、床面積2000平方メートル以上の特別特定建築物について基準への義務付けがなされた。しかし、この面積未満の建物や02年以前の建物は「努力義務」になっているため、未だに問題のある階段が残されているケースもある。なお、条例によって面積要件が引き下げられている地域もある。
「見えにくい弱視の方々などに対する配慮を意識せずにデザインした場合、見やすさや明るさの確保といった観点が抜け落ちる可能性があります」
では、どのようなデザインだと基準を満たすのだろうか。例えば、「踏み面」の先端を指す「段鼻(だんばな)」に、床面とのコントラストのあるラインを引くと段差が分かりやすくなる。両側の手すりの下にある階段の面にラインを引くこともある。さらに、手すりの下に設置された照明で階段が見やすくなる工夫などもあるという。
駅や空港などの公共交通機関はバリアフリー法に沿って整備される個所が多く、弱視者等にも配慮された階段が整備される。ショッピングモールなどの商業施設においても、近年はバリアフリーに配慮された建物が多くなってきているが、既存の建物においても、階段の色のコントラストをつけて視認性を上げることが重要だと、柳原氏は話す。