
従業員への福利厚生は、労働意欲を高め、企業への貢献を促す重要な要素です。しかし、その提供方法によっては、税務上のルールを逸脱し、予期せぬ税負担が生じる可能性があります。特に、多くの人がアルバイト時代に食べたことのある「まかない」も注意が必要で……。本記事では事例とともに、飲食店への税務調査の実態について、木戸真智子税理士が解説します。※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。
氷河期世代男性…職探しに困窮し、たどり着いた運命のバイト先
44歳のAさんは、東京の下町の飲食店で長年アルバイトをしていました。大学卒業直後は、正社員として働いていました。ちょうどAさんが就職活動をしていた時期は就職氷河期。思い描いていた職種にはつけず、卒業ギリギリで内定をもらった会社へ入社することに。しかし希望をしていた職種ではなかったことと、厳しいノルマやパワハラなどもあり、3年目のときに体調を崩して入院してしまいました。
「俺には合わない」と痛感したAさん。家族の勧めもあり、退職して、その後は派遣社員としてさまざまな職場に勤めてきました。派遣社員だったことから、賞与もなく安定しているとはいえない状況。しばらく実家に住んでいたのですが、Aさんの兄が結婚して同居することになり、Aさんは入れ替わるように実家を出て一人暮らしを始めました。
こうした生活を数年続けていましたが、派遣の契約が切れてしまうことに。Aさんは家賃や生活費の支払いもあるなか、この先どうしたらいいかと焦ります。そんなとき、たまたまみつけたある飲食店のアルバイト募集の張り紙。時給は1,200円。すぐに応募しました。次の派遣の仕事が決まるまで働かせてほしい、と切に伝えたところ、雇ってもらえることになりました。Aさんの新しい職場での生活がスタートします。
働きはじめると、飲食店の仕事が思いのほか合っていたようで、仕事で初めて充実感を感じます。店主とも関係が良好なこともあり、居心地のよい職場です。初めこそ転職活動を行っていましたが、段々とそれもやめて、44歳までアルバイトを続けてきました。
店主も真面目に働くAさんのことを信頼していました。働きはじめて数ヵ月が経ったころ、Aさんが家賃や生活費の事情を話した際、店主がそれならばと、飲食店の2階の住居スペースが空いているから引っ越したらいいよといってくれました。Aさんは当時ガスも水道も止まり、非常に困り果てた状況だったので、店主の温情に甘え、引っ越すことにしました。
(広告の後にも続きます)
店主の厚意によるまかない
さらに働きやすくなったAさんは、店主とともに忙しく働いていました。
地元で愛されている古くから続くお店なので、ランチや夜の時間帯は大変混みあいます。店主もAさんも食事をとることがなかなかできません。なんとか隙間時間をみて、店主がまかないを作ってくれていました。毎回とてもおいしい食事を振る舞ってくれて、それらはたびたび常連客の裏メニューになることも。Aさんもまかないが毎日の楽しみの一つでした。そんなAさんの様子をみて、店主も嬉しそうでした。