『アブラハム渓谷 完全版』© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night

 100歳を超えても映画を作り続けたポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。没後10年を迎えた今春、彼の多彩な作品群の中から5作品がデジタル・リマスター版で、4月18日より一挙上映されます(うち3作品は国内劇場初公開)。

 1908年生まれのオリヴェイラ監督は、1931年にサイレントの短編ドキュメンタリーを発表するなど若い頃から映画作りに情熱を傾けていたものの、アントニオ・サラザール政権による独裁体制下で企画が成り立たず、政権批判の発言が問題視されて投獄されこともあり、順風満帆とはいえませんでした。

 オリヴェイラ監督の才能に光が当たったのは、60歳を過ぎてから。1974年に独裁政権が終わると次々と作品を発表し、1985年にヴェネチア国際映画祭で特別⾦獅⼦⽣涯功労賞を受賞。1999年の『クレーヴの奥⽅』でカンヌ国際映画祭審査員賞を、2008年には同映画祭の名誉パルム・ドールを受賞するなど、現役最高齢監督として輝かしいキャリアを築き、2015年4月2日に106歳で亡くなりました。


『訪問、あるいは記憶、そして告白』© Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema

 美しい映像と音楽、斬新な展開で観るものを惹きつけるオリヴェイラ監督の作品群は、今も色褪せることはありません。この機会に、新たな発見、感動を体験してみてはいかがでしょうか。

自身の死後に公開するようことづけたドキュメンタリー
『訪問、あるいは記憶、そして告白』 


「私はシネマトグラフの映画監督だ」「映画は私の情熱だ」とオリヴェイラ監督が語る本作は、1982年のドキュメンタリー作品。ただし、自らの死後に発表するようことづけられていたため、2015年にポルト、リスボン、カンヌ国際映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されました。

 1942年に建てられて以来、およそ40年間オリヴェイラが暮らしたポルトの家を舞台に、家族や自らの人生をたどります。『アブラハム渓谷』の原作者でもあるポルトガル文学の作家アグスティーナ・ベッサ=ルイスが台詞を手掛けました。ドキュメンタリーなのにフィクションのような、独創的な作風に魅了されます。

『訪問、あるいは記憶、そして告白』

※国内劇場初公開
1982年/68分
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:マノエル・ド・オリヴェイラ、マリア・イザベル・ド・オリヴェイラ、ウルバノ・タヴァレス・ロドリゲス

© Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema

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ユーモア炸裂、驚きに満ちた喜劇的なオペラ映画
『カニバイシュ』


『カニバイシュ』© Filmargem, La Sept, Gemini Films

 アヴェレダ子爵に嫁いだマルガリーダは、婚礼の夜を迎えます。しかし、アヴェレダ子爵から自身が人間ではないことを告白されたマルガリーダは、思いもよらぬ事実に錯乱状態に陥ります。厳かなムードの晩餐会は、やがて驚愕の事態へと展開していくのでした。

 アルヴァロ・カルバリャルの原作をもとに、人間、動物、機械などの境界線を超越した奇想天外な物語を描いた怪作。マルガリーダ役を演じるレオノール・シルヴェイラがとても美しく、目を奪われます。本作が映画初出演だったシルヴェイラは、オリヴェイラ作品の常連俳優となり、後に『アブラハム渓谷』では主演を務めました。

『カニバイシュ』

1988年/99分
監督・脚色・台詞:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドリア

© Filmargem, La Sept, Gemini Films