定年退職後、ようやく手に入れた自由な時間と退職金。「これからは自分の人生を思う存分楽しもう」そう思っていた横山孝道さん(仮名・65歳 元会社員)は、長年取引のある銀行員から「現金では資産が目減りします。ぜひ運用をお考えください」と勧められました。信頼関係があったからこそ素直に受け入れた横山さんでしたが、数年後に大後悔することに……。横山さんの体験から、定年退職者が投資の罠に陥らないための教訓をFPの青山創星氏が詳細にお伝えします。

退職後、信頼する銀行員から提案「退職金を運用してはどうですか?」

長年勤めた建設会社を65歳で定年退職した横山孝道さん(仮名)。退職金は2,000万円、貯蓄は1,000万円、年金は月19万円でした。

退職からしばらくたったある日、会社の取引先だった大手銀行から電話がかかってきました。その相手は、5年以上付き合いのある山田課長(仮名)でした。

「横山様、退職おめでとうございます。退職金の運用についてご相談させていただきたいのですが」

横山さんは快諾し、翌日に支店を訪問。山田課長は、退職金について「まずは生活防衛資金として1,000万円を当行の特別金利の定期預金で」と提案。その上でこう切り出しました。

「実は横山様、インフレが進行した場合、現金だけでは資産が目減りしてしまいます。残りの資金を運用されてはいかがでしょうか?」

「運用ですか? 株とかですか? それは怖くて……」

「いえ、『ファンドラップ』というサービスです。プロにお任せできる資産運用サービスで、ご自身で難しい判断をする必要はありません」

横山さんは半信半疑でしたが、老後の資金を守るためには山田課長のいうことも一理あるように思えました。そこで、まずは定期預金で様子を見て、半年後に再度検討することにしました。

(広告の後にも続きます)

「私たちがすべて管理します」心強い言葉を信頼して2,000万円を投資

半年後、再び銀行を訪れた横山さん。ニュースで国が2%のインフレ率を目指していることや年金制度への不安が報じられるのを見るうちに、定期預金(金利0.02%)ではほとんど資産が増えないことに焦りを感じていました。また、生活費で少しずつ貯蓄を取り崩す状況に精神的なストレスを感じ始めていたのです。

「このままでは物価上昇に対応できない。せっかくの退職金が目減りしていくのは耐えられない」

そんな不安を抱えていた横山さんは、山田課長の「インフレが進行すると現金だけでは資産が目減りしてしまう」という言葉が頭から離れず、2,000万円をファンドラップで運用することを決意しました。

「インフレには負けたくない。安定した老後生活のためには、少しはリスクを取る必要があるのかもしれない」と考えたのです。

山田課長は投資に対する考え方やリスク許容度を確認するアンケートを実施。結果、横山さんには「安定型」のポートフォリオが提案されました。債券を中心に60%、株式30%、不動産10%の配分で、それぞれ日本と海外の比率は1:1とのことでした。

「このポートフォリオなら、安定性を重視しながらもインフレには負けない運用を目指せます」と山田課長。

分厚い契約書類には赤線で重要事項が示されていましたが、金融用語が多く、横山さんはすべてを理解することができません。手数料の説明もありましたが、その影響を実感するのは難しく、それでも山田課長の「私たちがすべて管理します」という言葉に安心して契約を結びました。

運用開始から3ヵ月後、最初の運用報告書では資産が1,980万円と減少していました。不安になった横山さんに山田課長は、「市場の短期的な変動ですので、ご心配なく」と説明しました。