氷河期世代を悩ませる新たな難題。「親の家」は、かつての安息の地から、手放したくても手放せない重荷へと変わろうとしています。都市部に生活基盤を築き、親の家に戻る予定のない世代にとって、老朽化が進み、買い手もつかない実家の存在は、経済的にも精神的にも大きな負担となりかねません。フリーライター・高殿円氏の著書『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)より、「売れない実家」問題のリアルに迫ります。

悩ましい氷河期世代に容赦なく降りかかる「実家売れない」問題

兄弟もみんな家を出て、自分もそこそこ都会に居を構え、もう戻るつもりはない実家。戻りたいなあと思えるロケーションや条件ならいいけど、残念なことに両親は団塊の世代。都会の賃貸より田舎の戸建て。庭付き一戸建てガレージ付き、もちろんトヨタか日産の新車、庭には芝生、犬を飼う、みたいなアメリカのホームドラマをそのまんま輸入したパッケージが家族の幸せでありスタンダード、と無邪気に信じていた世代です。

例に漏れず私の家も、いまにも廃線になりそうな単線電車の最寄り駅から徒歩30分、みたいな地獄のニュータウンにありました。幸か不幸か父の病気によって手放さざるをえなくなり、いま思えばあのとき半値以下でしたが売っていてよかった、と母は言います。

そんな価値がだだ下がった実家問題をみんなと語りたい!

私のようにアラフィフともなると、子どもは日本語が通じる代わりに大学受験目前でお金が湯水のように溶けていくのに、もう親の介護がはじまっている。耄碌(失礼)してくる親、医療費と学費に溶ける金、最近の訳のわからない受験システム、そして税金。生きているだけで感謝されたいサバイバル氷河期世代に降りかかる、非情な『実家が売れない問題』。

耄碌(失礼)してくる親

親自身は「75歳くらいで死ぬつもりでいるが、そんなに人間都合よくは死なない問題」がさらにヤバい!! (現代においてはもっと長生きすることも多いため、先々を考えておいたほうがいい)

どうすんの。

いや、本当に。マジでどうすんの。しかしどれも放置できない問題すぎる。親は弱っていくから、とりあえずケアは必要だし、子どもの受験はむろん待ったなし。馬車馬のように働いて、たまにコンビニで買って食べる『シュガーバターの木』が楽しみ、みたいな私に、実家に帰って片付けして、なおかつ家を売れと?

シュガーバターの木

洋菓子ブランドのひとつ『銀のぶどう』のプロデュースにより、2010 年に誕生した「バターシリアルスイーツ」の専門店。全粒粉やライ麦を使ったシリアル生地に、ホワイトショコラをサンドした「シュガーバターサンドの木」というお菓子が有名。

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実家よりもさらにヤバい「祖父・曾祖父の家」売れない問題

いやまだ実家はいい。かろうじて電車の通っている場所にあったりするじゃん。

問題は祖父とか曾祖父とかの家よ。謎のUFOみたいな楕円のライトが四つぐらい付いた、たこ足のシャンデリア未満とか、とくにお花や壺を飾っていた覚えもないのに必ずある床の間とか、床の間の隣の中途半端な書院造り(偽)とか、あと仏壇な。でかい。実家の仏壇でかすぎ問題。

キッチンとダイニングは無駄に仕切られているし、床のフロアカーペットはレトロなくすみオレンジだし(なぜ?)、キッチンのガス台は異様に低いし、吊り戸棚は絶対あるわりに使いづらいし、天井はなぞの穴ぽこが空いている石膏ボード張りだし、え、あの穴なに? おしゃれ? あの穴いる???

天井はなぞの穴ぽこが空いている石膏ボード張りだし

石膏天井材で、価格が比較的低く、ネジが目立たないので外観を損なわないのがメリット(ジプトーンという天井材らしい)。

ほかにも人の往来を拒む急な階段。私の記憶が確かならば途中までぼっとん式だったトイレ。無理矢理、増築した感が否めない風呂。風呂釜はステンレス。なんでステンレスなんかなエコにけんか売ってるあれまじで湯が冷めるんよ。

まとめて昭和の家問題。

いや、昭和レトロなのはいい。たとえすべての壁が謎の光沢を放つぺらっぺらのベニヤでも、剥がせば人体と同じく骨格が出るのみ。スケルトンリフォームという人類の叡智が俺たちを救う。

スケルトンリフォームという人類の叡智

住居の内装や設備をすべて解体して行う、大掛かりなリフォームのこと。古い建物でも、内装を一新できる。スケルトンとは英語で「骨格」のことで、住宅の内部や外部、あるいは両方を解体し、柱・梁・床といった建物の「躯体」だけにした状態のことをいう。

問題は場所だ。場所なんだ。

我が家が長年抱える祖父の家も、このような問題を抱えておりました。駅から徒歩圏というには遠い。庭なし、ガレージなし、築75年以上。

それでもまあなんとかそこそこ広さはあるし、長屋建築でもないから所有権は確立しているし、目の前は道だし生活はできる。おまけに最近近くにショッピングモールもできてお買い物が便利な上、大きな病院もまあまあ近い。

売れよ、さっさと売っちまえ。そう親族が言い続けてはや35年。祖父が死去してなお空き家のまま放置された祖父の家、もと米屋。なんとか地元の仲介業者さんに頼み込んで買い手を探してもらい、売り出し価格マイナス80万円で契約にまでこぎ着けた。