
予期せぬ遺産相続は、時に家族の絆を試すような試練となることがあります。故人の死後に態度が一変する相続人も少なくありません。本稿では、大山麻衣子さん(仮名)の事例とともに、相続トラブルを避けるためにいまからできる備えついて、ファイナンシャルトレーナーFP事務所の森逸行氏が解説します。
まるで奴隷…義母が味わった苦渋の日々
相談者は大山麻衣子さん(仮名)。義理の母との相続をめぐる問題に頭を抱えていました。
義母は当時74歳。再婚した2人目の夫を亡くした直後のこと。それにもかかわらず、葬儀の席で義母が口にしたのは、「早く亡くなってよかったわ」という、信じがたい言葉でした。さらに、涙も悲しみも一切見せず、終始穏やかな笑顔だったといいます。
普通であれば、配偶者を失った直後は深い悲しみに包まれるものでしょう。麻衣子さん夫婦も驚き、そのときの様子を「葬儀中も笑顔だった」と振り返ります。
背景には、義母の壮絶な過去がありました。再婚前は狭いワンルームで1人暮らしの極貧生活。老人ホームで血尿が出るまで働き続け、やっとの思いで再婚し生活は安定したものの、今度は厳しい束縛に耐える日々に。まるで家政婦のように働かされる毎日で、溺愛する孫に会いに来ても、夫の目を気にして10分で「もう帰ります」と立ち上がるほど。彼女が憧れていた結婚生活とはまったくかけ離れたものだったようです。
衣食住が保障されているものの、奴隷のように働かされる日々。ただただ耐えて一日一日を過ごしていました。そんな義母にとって、再婚相手の死は“奴隷からの解放”だったのかもしれません。
(広告の後にも続きます)
義母の“豹変”の始まり
再婚相手の死後、義母の口座には、「7,000万円」という大金と都内一等地にある一戸建てが転がり込みました。そこから、義母の言動が一変しました。
「この家、すぐに全部リフォームしたい。嫌な記憶を消したいの」義母はそう語り、麻衣子さん夫婦にも「どのリフォーム業者がいいの?」「キッチンはどう変えれば?」と次々と質問。最初は「力になりたい」と親身に対応していた麻衣子さん夫婦でしたが……。
数日後、「あれ、そんなリフォームの話したっけ?」とすべてなかったことに。リフォームの方針を急に変えると言い出す始末です。その後も二転三転と話が変わり、夫婦は「なにかおかしい」と感じはじめました。
そしてある日、麻衣子さんは義母宅の冷蔵庫に貼られていたメモをみつけ、ゾッとします。麻衣子さんが見積もりまで取り寄せて紹介したリフォーム業者の名前に“バツ印”が。「まるで“信用できない人リスト”のようだった」と麻衣子さんはいいます。