
年金制度の先行きが不透明になり、医療費や介護費は増加。高齢者の就労や社会参加が叫ばれる一方で、現場の取り組みはまだまだ乏しいのが実情です。そんななか、福岡県うきは市では75歳以上のおばあちゃんたちが自ら働き、ビジネスを行っているようで……。この高齢者の就労モデルにはどのような可能性が潜んでいるのでしょうか。大熊充氏の著書『年商1億円!(目標)ばあちゃんビジネス』(小学館)よりみていきます。
働くのは75歳以上の現役「ばあちゃん」
僕の名前は大熊充(おおくまみつる)。デザイナー業の傍ら2019年、ふるさとの福岡県うきは市で「うきはの宝株式会社」(以下、うきはの宝)という会社を設立しました。地域のおばあちゃんに働く場を提供し、「生きがい」と「収入」を創出する「ばあちゃんビジネス」のための会社です。ここから僕は、「ばあちゃんビジネスを始めたちょっと風変わりな社長」みたいな感じで知られるようになりました。
うきはの宝は、うきは市に住む75歳以上の高齢女性たちが働く会社です。現在、75歳以上の「ばあちゃん」と、60歳以上の「ばあちゃんジュニア」、ばあちゃんたちの仕事をサポートする若手スタッフが、世代を超えて協力しながら働いています。
料理上手な人、話し上手な人、グループをまとめるのがうまい人、元気がいい人、おとなしくて真面目な人……とまあ、年齢も個性も様々なばあちゃんたちが、週に1〜2回、市内の山間にある作業場に集まって、ワイワイ話をしながら仕事をしています。みんな、40代の僕よりずっとパワフル。頭の回転が早くて口も達者で言い負かされそうになることもしょっちゅうです。
「地元のおばあちゃんたちが、うきはの宝なんですね」
僕らの取り組みを見た人たちはそう言います。もちろん、それも宝です。でもこの社名には、うきは市のばあちゃんたちが大事に受け継いできた伝統ある食文化や、ふるさとの食にまつわる知恵を、未来の宝である子どもたちにつないでいく──そんな信念を込めています。
ふるさとのばあちゃんも、子どもたちも、文化も、ぜんぶが宝。
とはいえ、うきはの宝は最初からうまくいったわけじゃなくて、一歩前に進むたびに思いもしなかった壁に跳ね返される、その繰り返しでした。
そもそも、ばあちゃんたちと出会うまで僕自身の人生はどん底。20代の後半は長く入院していて誰からも必要とされず、「俺の人生終わったー」と自暴自棄になっていた時期もありました。
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“早く死にたい”とこぼす声を、どう受け止めるか
僕には全国に10,000人以上のじいちゃんやばあちゃんの友達がいます。といっても、相手は僕のことなんてもう忘れているかもしれませんけどね。今も毎日、各地に住むじいちゃん、ばあちゃんから電話がかかってきて話をしています。
僕が出会ってきたじいちゃんやばあちゃんたちは、一見ふつうに暮らしているんだけど、よくよく話を聞いてみるといろんな悩みを抱えています。
「毎日することがない」
「金がなくて生きた心地がしない」
「早く死にたい……」
超高齢社会の日本に、「早く死にたい」と訴えるじいちゃんやばあちゃんが大勢いる。隅に追いやられて、しょぼくれているんですよ。そんなの放っておけるわけがない。
じいちゃんやばあちゃんが活躍できる社会、必要とされる世の中にならなくて、誰が「人生100年時代」に希望を持てるのか。僕は自分自身が必要とされなかった時期が長かったから、痛烈にそう感じます。じいちゃんやばあちゃんの気持ちがめちゃくちゃ分かるんです。
超高齢社会の今、増え続ける社会保障費に国や地方自治体の予算はひっ迫して、若者世代にそのしわ寄せがきています。でも元気な高齢者が増えれば、この問題にも解決の糸口が見えてきます。みんなが恐れている「認知症」も、社会とのつながりの中で予防や緩和ができるかもしれないという報告があります。
今はまだ30代、40代の僕らの世代も、いずれじいちゃんやばあちゃんになる。そんなシニア予備軍やもっと若い世代が希望を持てる世の中にするには、今の現役のじいちゃんやばあちゃんが輝ける仕組みを真剣に作っていかないと。もう待ったなしのところまで来ています。
大熊 充
うきはの宝株式会社
代表取締役