
認知症の高齢者数は年々増え続け、2040年には584万人を超える見通しです。そのようななか、福岡県うきは市でビジネスに従事する「ばあちゃんたち」の姿が、予防のヒントとして医療関係者の間でも注目されています。本稿では、大熊充氏の著書『年商1億円!(目標)ばあちゃんビジネス』(小学館)より、認知症予防における“働くこと”の意義を探ります。
認知症率が高い日本
高齢者に「収入」と「生きがい」を──。そんなかけ声からスタートした、うきはの宝の取り組み。その想いは今も変わりませんが、最近特に世間から評価されている点は「認知症に関する効果」です。
認知症は、超高齢化が進む日本の未来に関わる深刻な課題のひとつです。厚生労働省の研究班が2022年に発表した資料によると、日本の65歳以上の高齢者のうち、認知症高齢者数は2022年の段階で約443万人。その数は2040年には約584万人に増加し、軽度の認知障がい(MCI)を持つ高齢者は612万人になると推計されています。
こういうデータを見ると、「認知症になったらどうしよう」と、たくさんの日本人が不安になるのではないでしょうか。
僕のもとには、うきはの宝の取り組みを評価してくださる医療関係者や地域作りに取り組む方々との対談依頼が増えています。そして、専門家の方々のお話をきっかけに、認知症について多くのことを知りました。超高齢化が進む日本に認知症の高齢者が増えるのは当たり前であること。認知症は病気ではなく、加齢とともに誰でもなる可能性があること。現時点では進行を遅くすることはできるけれど、治すことはできないことを学びました。
ある専門家の先生は医学的な見地から「認知症の進行を遅くするには、働くことがとても有効なんです」と言ってくださいました。やっぱりそうか、と勇気づけられました。それまでも何となく、自分らしく働ける場は高齢者の健康にもいいんじゃないかと思っていましたが、先生方と話していてそれが確信に変わりました。
日本人の認知症率は先進国の中でも最も高いそうです。僕はずっとそれはどうしてなんだろう、と疑問に思っていました。
でも、認知症の専門家の方々とお話しするうちに、その理由のひとつに、日本の高齢者の孤立と貧困が関わっているように思えてきました。この2つの要素って、本当に人の精神をむしばむんです。実際に僕もそうでした。
(広告の後にも続きます)
孤立と貧困をつなぐ“静かな断絶”
貧困の問題を解決するためには国の仕組みを変える必要があり大変ですが、孤立の問題なら高齢者本人にもできる対策はたくさんあります。
まずは、外に出ることです。
人間には「適度なストレス」が必要だと思います。人と会ってあれこれ考えながら話をする。面倒だなと思っても近所のサークルに参加して体を動かす。ひとつのチームで連携を取りながらミッションに取り組む。自分のことだけじゃなくて、誰かのことを心配する。大変だけれど誰かの役に立っていると実感する。
そういう、一人で過ごしている時には感じないちょっとしたストレスって、多少やっかいかもしれないけれど、やっぱり必要なんです。誰とも関わらず、誰からも必要とされずに過ごすのは、外部から受けるストレスはないかもしれないけれどつらいものです。
孤立と貧困は別の問題のようにも見えますが、まったくつながりがないわけでもありません。
僕が『ジーバー』※の活動で出会ってきた地元のじいちゃんやばあちゃんの中には、生活するお金が足りないから買い物にも行かず自宅に引きこもっていた、働く場所がないから外に出かけるきっかけを見失っていた、そんな人がたくさんいました。
自ら好んで人との関わりを絶ったわけではありません。気づかないうちに社会とのつながりがなくなって、気づいた時には孤独になっていたのです。日本は急激に高齢者の数が増え続けているけれど、健康で仲間が大勢いる人だけではなくて、孤独な高齢者も同じように増え続けているのかもしれません。
そういう人たちの気持ちが少しでも外に向くようなきっかけを、僕らは高齢者ビジネスを通して創っていくべきだと思うのです。
大熊 充
うきはの宝株式会社
代表取締役