親の介護費用と子どもの教育費という2つの出費が重なり、悩んでいる人は少なくありません。特に、親が施設に入居する場合には費用や将来の変化を見越して慎重に選ぶ必要があります。一時的な安心感で判断すると、仕送りの負担増や親の転居など思わぬ事態を招くことも。トータルマネーコンサルタント・CFP®の新井智美氏が、事例と共に解説します。

父亡き後、一人暮らしをしていた母が介護施設に入居

一樹さん(48歳)は地方のとある街で働く会社員。妻もパートで仕事をしており、世帯年収は800万円ほど。来年大学受験を控えた息子と現在大学に在学中(大学2年生)の娘の教育費負担が重くのしかかる中、一樹さんはもう一つ悩みを抱えていました。

それは、77歳になる母の介護です。父は3年前に亡くなり、以降、母は父と住んでいた家で一人暮らしを続けてきました。そんな折、母が家の中で転倒。大腿骨骨折という大怪我を負ってしまったのです。

車椅子生活になった母の介護を自分で行うことは現実的に難しく、公的施設にはすぐに入れるところがなかったことから、仕方なく民間の介護施設への入居を考えた一樹さん。

母も同意してくれたものの、その時点で入れた民間の介護施設の費用が高く、母が受け取っている年金額(年間150万円)だけではまかなえません。

そのため、差額の3万円程度を仕送りすることにし、ときどき介護施設に様子を見に行く形にしていました。施設内で友達ができ、楽しそうにしている母の姿を見た一樹さんは安心したといいます。

ところが、事態は思わぬ方向へ。一樹さんの母は入居時には要介護3だったものの、杖を使えば少しの距離なら歩けるなど、徐々に自分で身の回りのことができるようになったため、次の認定では要介護1まで下がりました。それにより、介護施設に支払う費用が上がることに。

なぜなら介護施設の費用は要介護度によって異なり、要介護度が低いほど施設に支払う金額が高くなるからです。その結果、最終的な施設利用の月額料金は15万円となり、一樹さんはそれまでの3万円の倍にあたる毎月6万円の仕送りをすることになってしまいました。

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子どもの予備校費用や学費がかさみ、母への仕送りが困難に

母への仕送り額が倍になり、家計への負担は大きく増した上に、思わぬ事態が重なります。息子が大学受験に失敗し、予備校に通うことになってしまったのです。翌年には晴れて大学合格を果たしたものの、地元の大学ではなく自宅外通学となったため、息子への仕送りが必要になりました。

さらに、現在在学中の娘が大学院への進学を希望してきたことも追い打ちをかけることに。本来なら4年で卒業するため、あと1年で1人分(娘)の学費負担がなくなると考えていた一樹さんには想定外の出来事でした。

息子・娘への仕送りや大学院進学の費用を考えると、さすがに母への仕送りが難しくなると考えた一樹さんは、今の施設に入居を続けることは難しいと考えました。このままだと、自分の老後資金の準備すらできなくなってしまうと考えたからです。

一樹さんは改めて公的な介護施設を探し、母は民間の介護施設に入居した3年後に自分の年金額で入れる住居型の公的ケアハウスに転居することになりました。