
子どもの健全な成長や幸福を最優先に考える原則「子の利益」が見直されつつあります。離婚等の理由で損なわれる「親族との交流」の対象に祖父母を含むことはできるのでしょうか。本記事ではAさんの事例とともに、子の離婚に伴う祖父母と孫の交流について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
息子を亡くし、孫とも引き離され孤独に…
現在66歳のAさんは、23歳で結婚し、翌年男の子を出産しました。しかし、29歳のときに夫が病気で亡くなってしまいます。それからは夜遅くまでミシン縫製の内職をして、なんとか女手一つで息子を育て上げました。当時、ほかに頼る人もおらず、生活に不安を抱えるなか、胃に穴が開くほどのストレスを抱えていました。
独り立ちし35歳で結婚した息子は、「お母さんが心配だから」とAさんの夫が残してくれた住まいに嫁も連れて同居してくれました。嫁は物静かな人で、Aさんにとっては「なにを考えているかよくわからない人」でしたが、同居にあたって不満はありませんでした。
やがて孫も産まれ、Aさん家族4人は幸せな生活を送っていました。ところがAさんの息子が41歳という若さで、父親と同じ病気になり急逝してしまったのです。Aさんは苦労して育て上げた一人息子の死に大きなショックを受け、家から出られなくなりました。
そんなAさんの心を慰めるのは、4歳になる男の子の孫だけです。嫁が働きに出て2人きりになったときは、孫の食べたいものを食べさせたり、欲しいものを買い与えたりとついつい甘やかしてしまいました。
それが影響したのでしょうか。Aさんの息子が亡くなって半年ほど経ったころ、特に理由を告げることもなく、嫁は突然孫を連れて実家に戻ろうとします。Aさんは狼狽し、なぜ出ていくのか尋ねると「もう赤の他人なので」と一言返されました。Aさんと嫁は仲がいいというわけではありませんでしたが、悪くもありません。しかし、嫁のいうとおり、他人は他人。同居し続けるのには無理があったのでしょう。Aさんの孫への接し方に嫁が不満をもっていたとも考えられます。
ひとり残されたAさんは、亡くなった息子やいなくなった孫を思い、毎日のように泣き続けました。
嫁からは連絡もなく、電話をかけても孫の声さえ聞かせてもらえません。会いに行くといっても「忙しいから」と断られてしまいます。どうしても孫に会いたいAさんは、「血のつながった孫に二度と会えなくなるのは絶対におかしい。法律でなんとか会うことを認めてはもらえないか」と考え、専門家を尋ねたのです。
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「祖父母との交流」が法律で認められることも
令和6年5月17日、民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)が成立しました(同月24日公布)。2026(令和8)年5月までに施行されます。この法律は、父母の離婚等において「子の利益」を確保するため、民法等の規定を見直すために成立されたものです。
「子の利益」とは、子どもの健全な成長や幸福を最優先に考える原則であり、家庭裁判所が親権や面会交流などを判断する際の重要な基準となります。今回の民法改正では、特に以下の点が強調されています。
・子どもの心身の健全な発達:子どもが安心して成長できる環境を確保すること。
・親子関係の維持:離婚後も子どもが両親や祖父母と適切に交流できるよう配慮すること。
・養育費の確保:子どもの生活を安定させるため、養育費の支払いを強化する仕組みが導入される。
・監護権の適正な行使:親権者が子どもの利益を最優先に考えて監護すること。
この改正により、祖父母との交流についても「子の利益」に基づいて判断されるため、家庭裁判所が「特に必要」と認めた場合に限り、面会交流が認められる可能性が出てきました。
これまで民法には父母以外の親族(たとえば、祖父母等)と子どもとの交流に関する規定はありませんでした。しかし、たとえば、祖父母等と子どもとのあいだに親子関係に準ずるような親密な関係があったような場合には、父母の離婚後も、交流を継続することが望ましい場合があります。そこで今回の改正では、子どもの利益のため特に必要がある場合は、家庭裁判所が父母以外の親族と子どもが交流するよう定めることができる、としています。
また、子どもが父母以外の親族と交流するかどうかを決めるのは、原則として父母ですが、たとえば、父母の一方が死亡したり行方不明になったりした場合など、ほかに適当な方法がないときは、次の1~3の親族が、みずから、家庭裁判所に申立てをすることができるようになります。
1. 祖父母
2. 兄弟姉妹
3. 1, 2以外で過去に子どもを監護していた親族
Aさんは、専門家から上記の民法改正について聞きましたが、Aさんのケースは家庭裁判所で認められるには理由が弱いことも説明されました。そして、次のようなアドバイスも受けました。
「いまは直接の交流が難しくても、お孫さんへの気持ちをなんらかの形で伝える方法はあります。たとえば、お孫さんに手紙を書くのはどうでしょうか? または、お嫁さんに『あなたとの関係がどうであれ、私は孫の成長を見守りたい』と伝えることで、関係が改善する可能性もあるかもしれませんよ」