オーストラリアの大都市シドニーからほど近い場所にある高級住宅地・モスマン地区。その一角に存在するマリーナは、早朝から大型のクルーザーやヨットが次々と出航し、また敷地内のレストランでは海を眺めながら朝食をとる地元住民たちの姿があるそうです。マリンレジャーが根付くオーストラリアで暮らすシニア富裕層たちの実態と、そこに存在する「投資妙味」について、Keyaki Capital株式会社代表取締役CEOの木村大樹氏が解説します。

オーストラリアの「シニア富裕層」の実態



d’Albora The Spit
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シドニー中心部から北へ20分ほど車を走らせたところにある高級住宅地・モスマン地区の一角に「d’Albora The Spit」というマリーナ※があります。

※マリーナ:ヨットや小型船を泊めておく、小さな港や水域(の施設)。

このエリアは観光地としての派手さこそないものの、早朝から大型のクルーザーやヨットが次々と出航し、敷地内のレストランでは海を眺めながら朝食をとる地元住民の姿が見られます。

海辺でのこうした光景は、オーストラリアのなかでは日常の一部です。

The Spitに限った話ではありませんが、マリーナの利用者の多くは、資産をしっかり築いた50代後半から60代のシニア富裕層です。実際、オーストラリア最大級のマリーナ運営会社であるd’Alboraでは、55歳以上の顧客が全体の約59%を占めています。



[図表1]d’Alboraの年齢別ポートフォリオ構成 出所:MA Financial 「d’Albora顧客データベースの匿名分析」

オーストラリアでは「マリンアクティビティ」が日常そのもの

その理由として、オーストラリアにおいて「マリンアクティビティ」は、我々の想像をはるかに超えて人々の日常に溶け込んでいることがあげられるでしょう。

驚くべきは、そのライセンス保有率です。なんと、10人に1人がボートのライセンスを所有しています。

週末に家族や友人とマリーナへ出かけ、海を楽しむ──そんなライフスタイルが根付いているのです。

オーストラリアでは、国民の約85%が海岸から50km圏内に居住しています。こうした背景から、マリーナにはたしかな実需と、生活に根ざした強いニーズが存在していることがわかります。

そのため、オーストラリアのシニア層は生活必需品以外への支出も堅調です。オーストラリア・コモンウェルス銀行の調査によると、65歳以上は前年同期比(2023年第1四半期~2024年第1四半期)+5.5%の増加、55〜64歳では+3.0%の増加となっています。マリーナにおけるレジャー消費が継続して行われている実態が、この数字からもうかがえます。



[図表3]1人あたりの生活必需品以外の支出:平均変化率 出所:Commbank IQ「Cost of Living Insights Report May 2024」

オーストラリアのマリーナは決して “ラグジュアリーな非日常”ではなく、こうした富裕層によって日常的に利用されているのです。

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マリーナに「投資する」という選択肢



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今回紹介したオーストラリアのマリーナについて、実はレジャー以外の側面があることはご存じでしょうか。現在、こうしたマリーナは「オルタナティブ資産」として世界中の富裕層・投資家に注目されています。

オーストラリアのマリーナを投資対象としてみた場合、最大の特徴は「構造そのものが味方する市場」である点です。

まず、オーストラリアは海岸線の開発に対して非常に厳格な環境規制が設けられており、新たにマリーナを建設するのは極めて難しい状況にあります。

さらに、政府からの許認可取得や自治体との調整も不可欠であり、実質的に新規参入のハードルは非常に高くなっています。こうした「参入障壁の高さ」こそが、オーストラリアに存在する既存マリーナの希少価値を支えているのです。

これに加えて、先述したようにオーストラリアではマリーナが人々の生活に深く根付いています。

その結果、主要都市近郊のマリーナは常に高い稼働率を維持しており、“空き待ち”が発生するのが当たり前という状況が続いています。

つまり、供給が少ない一方、需要は安定している……このような“非対称な構図”が、オーストラリアのマリーナの資産価格や利回りの安定性を支えているのです。