親の介護は、ある日突然、そして容赦なく始まる。それは、一つの問題が解決したかと思えば、また次の問題が降りかかる、終わりの見えない闘いの始まりかもしれない――。近畿地方在住の高蔵小鳥さん(仮名・42歳)は、両親の離婚や自身の転職を経て、実家に戻り、憧れだったアパレル系の会社で人事として働いている。家事は母に任せきりで、悠々自適な暮らしのはずだったが……。旦木瑞穂氏の著書『しなくていい介護 「引き算」と「手抜き」で乗り切る』(朝日新聞出版)より、高蔵さんのリアルな体験談から、私たちが目を背けてはならない現実を浮き彫りにする。

「あれ?」と思う日が増えていく…母娘2人暮らしで気づいた母の“異変”

高蔵さんは、近畿地方の実家に帰ってきてからというもの、家のことはほとんど母親に任せきりだった。転職する前は家に8万円入れていたが、転職後は給料が減ってしまったため、3万円入れる他は、食事の支度はもちろん、掃除も洗濯もやらない。休みの日は疲れて寝ているか、友だちと遊びに出掛けていた。

それでも母親とは仲が悪いということもなく、年に1回は母娘で国内外に旅行にいった。

そして高蔵さんが41歳の時、ずっと働いてみたいと思っていたアパレル系の会社に人事として採用が決まる。住み慣れた実家から、やりたかった仕事に挑戦できる。高蔵さんは恵まれた環境で、充実した日々を送るようになった。

2019年夏。高蔵さん42歳、母親78歳になっていた。母親は、かりんとうやせんべいなど、同じお菓子ばかりいくつも買ってきたり、近所から習いにくる人がいたほど料理が上手だったにもかかわらず、食べられないほど味付けが濃くなるなど、「あれ?」と思う日が増えていく。また、今まできれいに掃除や整理整頓がされていた家の中も、いつの間にか乱雑になってきていた。

「今思うと……という感じで、当時私は料理もしませんでしたし、食材なんかも自分で管理していませんでしたから、ストックなどもちょっと同じものが増えてきたなと思っても、『間違えて買ってきたのかな』くらいにしか感じていませんでした」

「引き落としができません」…知らぬまに“不正勧誘”の被害者となっていた母

そして同じ年の秋ごろ。母親がメインに使っていた銀行から「引き落としができませんでした」というハガキが届いたため、不安に思った高蔵さんが確認しに行くと、高額な保険料が引き落とされていたせいであることが発覚。

「母に確認しても『覚えてない』と言うだけで埒があきません。私が調べたところ、1年ほど前に契約してしまっていたかんぽ生命が問題でした。母は、一時期ニュースで取り上げられていた不正勧誘事件の被害者だったのです。もうひとつは、3ヶ月ほど前に訪問営業で契約してしまったもので、ひと月6万円も引き落とされていました。後期高齢者になっていた母にはもう、死亡保険や入院保険は必要ないと判断し、これを機会にいらない保険は全て解約しました」

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「認知症」と気がついたきっかけ

保険問題で奔走していた高蔵さんは、近所に住む母親の友人から声をかけられる。

「最近お母さんの様子が変だと思っていたの。話していても、同じことを何度も言ったり、約束したことを全然覚えてなかったりするのよ。うちの夫も認知症の初期で同じような症状だったから気になって……」

高蔵さんはすぐに近所の病院に母親を連れていくと、検査の結果、「アルツハイマー型認知症」と診断された。

「まさか自分の親が……と思いました。でもこの時点では認知症というものがあまりどういうものかわかっておらず、徐々にその大変さがわかってきた感じです」

要介護認定を受けると、要介護2と認定された。